toy ring

□toy ring冬企画1
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「来年も再来年もあるよ。だから、来年は楽しめるといいね」
 エドワードの目が潤んで、アルフォンスを見上げる。その星のような煌めきに、アルフォンスは唇を落とした。
「うん」
 エドワードがアルフォンスの首に両腕をまわし、ぎゅっと抱きしめ、それに答えるようにアルフォンスもエドワードを強く抱きしめた。
「イベントよりも、僕の隣に貴方がいることが一番重要だよ」
「アル…」
 心がじんわりと温かくなるのを感じて、エドワードの瞳から一粒だけ涙が零れ落ちた。
 自分も、そう思うから。



 そして、24日にしぶしぶ一人で撮影所にむかったエドワードはふくれっつらのまま、カメラの前に立っていた。
「なんだ、その顔は」
「べつに〜」
 すでに衣装は、冬から春に向けてのものになっていて、濃い色から、淡い色調に変化していた。
「ちゃっちゃとやらないと、早く終わらないぞ。午後六時には終了予定だ」
「え、マジで!?」
 に、っと笑ったエンヴィーを信じて、エドワードは集中することにした。

 朝からの撮影は、休憩もろくにとらず、ハイペースだった。
「はい、最後の衣装よ。頑張って」
 ラストに背中をぽん、っと叩かれて、エドワードは背筋を伸ばす。今日一日どれくらいの衣装を着ただろう。
 男性的なの視線を向けたり、時には柔らかい女性的な色目を使ったり、エドワードも疲れてはいたが、それよりも早く終わることの方が重要だ。
 数枚撮った時点で、エンヴィーのオッケーが出たので、エドワードはすばやく衣装を脱ぎ捨てた。
 そして、着ることはできないだろう、と思った衣装を取り出した。
「…あら、ヤッパリ着るのね。それ」
 それは、以前クリスマス用の撮影をしたときの衣装だ。その雑誌もすでに一ヶ月も前に発行されている。
「う、うるさいな〜」
「くす、じゃあ、軽くメイクしてあげるわ」
「え…」
「素でもいけないこともないけど、どうせならカンペキに」
「サンキュ、ラスト」

 RRRR…RRRR…RRR…
 三回のコールでアルフォンスが『はい』と電話の向こうで出た。
「アル!?仕事終わったんだ。近くの公園で待ち合わせして、レストラン行こ?」
『…え、は、早かったね』
 電話の向こうが騒がしい。それに、なんだろう、今のビミョウな戸惑いを含んだ声は。
「…おまえ今どこにいるの?」
『…ごめん、さっきウィンリィに呼ばれて、ウィンリィの部屋にいる…。トモダチが何人もいて…』
 そこまで聞いて、エドワードは胸に、悔しさのような、苦い痛みが駆け上がってきた。
「…なら、いいよ」
『今行くから!』
「来なくていい」
『にいさ…』
 ぷつ、っと切れた音に、エドワード自身も辛い。
 
 自分だけが楽しみだったのかな。
 二人よりも、みんなで騒いだ方がいいよ。
 だって、いつも二人だもんな。
 楽しい方がいいにきまってる。

「…僕の隣に貴方がいることが一番重要だよっていったの、誰だよ…」
 衣装だって、ずっとまえに用意して、メイクだってしてもらったのに。
今日だけは、おまえの隣が似合う女を演じようって、決めてたのに。
男同士で、兄弟じゃ様になんねーだろ。一般的なコイビトの過ごし方は、おしゃれして、デートするんじゃないの?
「だって、おまえオレの横にいないじゃん…」
 独り言が、寒空に消える。
エドワードの足は、つい撮影所近くの公園にむいてしまった。アルフォンスは来ないのに。
エドワードの視線に入るのは、木々に飾られた電飾や、様々なイルミネーションを見に来るカップルたち。
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