toy ring
□toy ring 8
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ロゼ、と紹介された女性は、にこっと優しい笑みを浮かべた。
「飯はどうした?」
「あ、ごめん、今日遅くなるのかと思って、ロゼと食べてきちゃった」
部屋に入るなりそういうと、エドワードは自分だけの食事を作り始め、アルフォンスはリビングで待っているロゼのために紅茶を淹れてやっていた。
「で、なんであのひと、ウチに呼んだんだよ」
「ちょっと、他所では話せないことがあってね」
「…ふうん」
他所では話せないことって一体?
何か隠してる?いや、隠してたら家に呼ばないか…。なんだろ?
適当に作ったパスタをキッチンで食べて、リビングに顔を覘かせると、いつのまにかリビングが洋服だらけになっていて、エドワードは面食らった表情で見ている。
そういえば、ロゼさんもアルも鞄持ってたな、と思いだし、何が始まるんだ、と傍観していた。
「食事終わった?」
「終わったけど…これは一体…」
アルフォンスはにっこり笑顔で、エドワードの肩に手をぽん、と置いた。
「着てみて?」
語尾にハートマークがつきそうなくらいの微笑み。
「はあ?」
洋服を良くみてみると、様々なものがあって、ワンピースやスカートなど女性独特のものから、男女兼用のデザインらしきシャツや、Tシャツ、ボトムなどたくさんある。
「ええっと…なんで?俺が?着るの?」
今度は、ロゼがにっこり笑顔で言う。
「貴方のためにあるようなものですから」
語尾がキラキラの星を煌めかせている。
「…は?」
いまいち、この二人の言っている意味がわからないエドワード。
「とにかく、まず着てみて?」
「う、うん…?」
優しい言い方だが、いやとは言わせない強さで言われてしまった。これは強制だ。
寝室でアルフォンスに押し付けられた服とパンツを履く。
「わ〜さすが!似合いますね」
「足のラインキレイに出てるね。身長低くても大丈夫だ」
「…今聞き捨てならない言葉が聞こえたけど?」
「気のせいだよ」
しれっと流されて、エドワードは口を尖らせた。
「はい、こっち向いてください」
「え?」
ロゼに呼ばれて、振り向くとぱしゃっと光がはじけて、向けられたのがカメラだと気が付く。
「うそ、スッピンだけど!」
「大丈夫ですよ、キレイですから」
「じゃなくて!ばれるじゃん!」
「何がですか?」
きょとんとロゼが言うので、あ、『ed』だということはばれてないんだ、と思い口を噤んだ。
そのあと何着も着せ替え人形のごとく衣装をかえていく。そのたびに写真を撮られていた。そのナゾが解けたのは、数日後のことだった。
エドワードが『ed』としていく撮影所は、小さなバーになっている。そのバーにエンヴィーに呼ばれていくと、何故かそこには、ロゼとアルフォンスがすでに来ていて、すわっていた。そして、もちろんエンヴィーとラスト、そしていつもはいないウィンリィ。
「どういうこと?」
「まあ、すわれよ、エド」
しぶしぶ座ると、アルフォンスが口を開いた。
「ブランドを立ち上げようと思ってる」
「誰の」
「アルフォンスがデザインする、ブランドよ。デビューは今度の『toy』すべてのページで」
「…!いつ、そんな準備をしてたんだよ、おまえ」
「すこしずつね」
アルフォンスのスケジュールはエドワードが把握している。だが、唯一知らないというのは、自分が撮影をするときだ。その時だけの時間を使って、ここまで用意していたのだ。
「全部、アルフォンスのデザインです。すべてが男女兼用で、店はないネットショップのみ。そしてすべての衣装は『ed』とアルフォンスが着ます」
ロゼが明るい笑顔で、そう伝える。
「そ…っか」
もっと驚くかと思った。それが、アルフォンスの思いだ。だが、エドワードは、嬉しそうでも悲しそうでもない。ただ、へえ、っと表情なく言うだけだった。