よみもの アルエド(未来軍部)2
□悲しみと喜びの狭間で(前編)
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エドワードの眉根がこれ以上ないくらいに、皺を寄せ、下唇を噛んで震えていた。
「すみません…」
「いや、でもエイジがすぐに医療錬金術で治療を施した。だが、出血が多くて、これ以上施すことができなかったんだ…」
エネルは、エドワードがきつく手を握っていることに気がついた。
彼は何を思っているのだろう?
怒り?
悲しみ?
後悔?
「わかった…ありがとう。少佐、大尉」
儚く消えそうなその笑顔を見る。
とたんに、二人の心臓がぎゅっと握り潰されるかのような衝撃を覚えた。
この人は、これから生きていけるのだろうか?
そんな不安が脳裏にこびり付いて離れなかった。
☆
手術は成功して、いまはひたすら眠っているアルフォンス。
その場を、決して離れようとはしないエドワード。彼を思うならば、そっとしておくしかなかった。
彼を動かせるのは、今ベッドに横たわっている人物しかいない。それを承知していた部下たちは、司令官、副司令官不在のままの仕事場に戻るしかなかった。
「アル、おまえがずっと寝てるなんてな。身体を取り戻した以来じゃないか?」
はは、と笑ってみるが、自分だけでは寂しい色が取り巻くだけで、何も変わらない。
この手は、暖かくて、脈もちゃんとあって。
ただ、頭に白い包帯が巻かれていて。
その白いガーゼが鮮血に染まっていくのが、耐えられない。その色を、不安にさせるのは、自分だけじゃないだろう。だけど、その色の意味を一番理解している。
母の錬成。
この世につなぎとめた血文字。
助けられなかった少女。
神の代行者。
殺害された人々。
「ッ…!」
エドワードはぎゅっとアルフォンスの手を握った。
生きてる、生きてる。
だいじょうぶ、いきてる。
「アル!アル…!アルフォンスッ!!」
目を開けて!
俺を見て!
兄と呼んで!
その手で触れて!
「アル、アル…!」
やっと、エドワードの頬をぬらした涙。
重体と聞いても、手術中だと聞いても、出なかった涙。
堰を切ったように、あふれ出した。
「う…」
小さな声が聞こえた。
「アル・・・!?」
アルフォンスの瞳が、ゆっくりと開かれて、しばらく宙を見つめている。やがて、ゆっくりとその瞳がエドワードを捉えた。
「アル…!」
アルフォンスは、しばらくエドワードの瞳を見つめる。
涙が出ている、その人。
「……だれ…ですか…」
エドワードの瞳が大きく見開かれた。
中編へ続く。