よみもの アルエド(未来軍部)2

□悲しみと喜びの狭間で(前編)
2ページ/2ページ

 エドワードの眉根がこれ以上ないくらいに、皺を寄せ、下唇を噛んで震えていた。
「すみません…」
「いや、でもエイジがすぐに医療錬金術で治療を施した。だが、出血が多くて、これ以上施すことができなかったんだ…」
 エネルは、エドワードがきつく手を握っていることに気がついた。
 彼は何を思っているのだろう?
 怒り?
 悲しみ?
 後悔?

「わかった…ありがとう。少佐、大尉」
 儚く消えそうなその笑顔を見る。
とたんに、二人の心臓がぎゅっと握り潰されるかのような衝撃を覚えた。
 
この人は、これから生きていけるのだろうか?

そんな不安が脳裏にこびり付いて離れなかった。
  

 手術は成功して、いまはひたすら眠っているアルフォンス。
その場を、決して離れようとはしないエドワード。彼を思うならば、そっとしておくしかなかった。
彼を動かせるのは、今ベッドに横たわっている人物しかいない。それを承知していた部下たちは、司令官、副司令官不在のままの仕事場に戻るしかなかった。
「アル、おまえがずっと寝てるなんてな。身体を取り戻した以来じゃないか?」
 はは、と笑ってみるが、自分だけでは寂しい色が取り巻くだけで、何も変わらない。
 この手は、暖かくて、脈もちゃんとあって。
 ただ、頭に白い包帯が巻かれていて。

 その白いガーゼが鮮血に染まっていくのが、耐えられない。その色を、不安にさせるのは、自分だけじゃないだろう。だけど、その色の意味を一番理解している。
 母の錬成。
 この世につなぎとめた血文字。
 助けられなかった少女。
 神の代行者。
殺害された人々。
 「ッ…!」
 エドワードはぎゅっとアルフォンスの手を握った。
生きてる、生きてる。
だいじょうぶ、いきてる。

「アル!アル…!アルフォンスッ!!」
 目を開けて! 
 俺を見て!
 兄と呼んで!
 その手で触れて!
「アル、アル…!」
 やっと、エドワードの頬をぬらした涙。
 重体と聞いても、手術中だと聞いても、出なかった涙。
 堰を切ったように、あふれ出した。

「う…」
 
 小さな声が聞こえた。
「アル・・・!?」
 アルフォンスの瞳が、ゆっくりと開かれて、しばらく宙を見つめている。やがて、ゆっくりとその瞳がエドワードを捉えた。
「アル…!」
 アルフォンスは、しばらくエドワードの瞳を見つめる。
 涙が出ている、その人。
「……だれ…ですか…」

 エドワードの瞳が大きく見開かれた。


中編へ続く。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ