よみもの アルエド(未来軍部)1

□ゆきの舞う日
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 カズンは深く頭を下げて、去っていった。
「アル。ニーナ帰った?」
「うん。パパとね」
「ニーナっていうんだぜ?」
「うん・・・」
 二人の間に、沈黙が降りてきた。エドワードは、まだ降る雪を眺めている。
「いまごろ、ニーナとアレキサンダー、空の上で遊んでいるのかな」
「うん、そうだね」
「今日であったニーナは幸せになってくれるといいな」
「うん。兄さんも・・・。兄さんも、幸せになってくれるといいな」
 エドワードはアルフォンスを見つめ、そしてふっと笑った。
「何いってんだよ。俺は、十分幸せデス」
「じゃあ、コレ」
 アルフォンスが出したのは、十枚ほどの紙の束。
「最後の仕事。僕はもう帰るから」
「ええ!?きったねー!まっててくれないわけ?」
「夕飯、ご馳走にするっていったでしょ」
「あ、うーん・・・」
「クス、ほら。そんな顔してるから、ニーナにお姉ちゃんって言われるんだよ」
「な☆何で知ってるんだよ!?それに、どんな顔だよ!」
 赤面した顔でエドワードに怒鳴られ、でもアルフォンスは声を立てて笑っていた。
「じゃ、気をつけて帰ってきてね」
「ったく・・・」 
エドワードは茶色いドアが閉まるのを見送っていた。
「ニーナ・・・」
 エドワードは、一人になった執務室で、もう一度だけ少女の名をつぶやき、そして思い出す。一緒に雪の中を走り回った少女。錬成した花の冠をとてもうれしそうに、頭にのせていた少女。国家錬金術の試験を一番応援してくれた少女。思い出のニーナはすべて笑顔だ。 
 国家錬金術師の、自分の父親を好きだといったニーナ。会いたくて、司令部まで来てしまったニーナ。二人のニーナに、父親を好きだという気持ちに違いはない。
 苦い思いを胸にしまいこんで。どうしようもない苛立ちを、昇華するには、自分はどうしたらよいのだろう。
 もう、大人になったのに、そんなこともできない自分。
「俺・・・今日誕生日じゃん」
 アルフォンスがいたら、今気が付いたの!?と馬鹿にされそうなせりふだ。
「二十歳って、もっとオトナかと思った・・・」
 ため息をついて、エドワードは十枚の書類に目を通し始めた。


「ただいま」
「遅かったね」
 家につくなり、アルフォンスの声が、冷え切った体に染み込む。
「わ、真っ白」
 アルフォンスが、あわててエドワードの頭や肩の雪を払ってくれて、エドワードは何も言わず、されるがままにしていた。
「どうしたの?」
「いや、今日。俺・・・二十歳になったんだよな・・・?」
 アルフォンスは、小さくため息をついた。
「だから、お祝いのためにご馳走作ったんだけど?」
「あ、だからご馳走だったのか」
「あのねぇ・・・。僕はてっきり、早く帰りたいようなこと行ってたから、誕生日だからかな、とおもっていたんだけど」
「いや、雪が酷いから、帰りたいって思っただけ・・・」
「まあ、いいよ。先にお風呂で温まってきたら?」
「うん」
 素直にアルフォンスの言葉に従い、風呂からでると、ふわりと食欲をそそるにおいがエドワードの鼻に届いた。
「ご馳走、っていっても時間があんまりなくて」
 エドワードには見た目で何の料理か分からないが、サラダっぽい物に、野菜のたくさん入ったスープ、子羊らしき肉が綺麗に並んだ皿、グラタンのようなパスタの皿、パンの入ったかごが並んでいた。そして、白いクリームのケーキ。
「うまそー!これ今の時間で作ったのか!?」
「下ごしらえはしてあったからね。ケーキはあわてて作ったから、ちょっと自信ないかな」
 エドワードはにかっと笑って、アルフォンスをみた。
「ありがとう、アル。嬉しい」
「どういたしまして。どうせなら、賑やかに祝うことも考えたんだけどね、忙しいし・・・。できなくて、ゴメン」
「十分だよ、アル」
 アルフォンスが滑らかな動きで、ワインのコルクを抜いていた。
「兄さんは白ワインのほうが好きかな、と思って」
「うん」
 エドワードはグラスについでもらう。
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