よみもの アルエド(未来軍部)1

□サボリ場
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はい」 
 二人は敬礼し、その部屋を出ていった。
 アルフォンスはパンと両手を鳴らし、扉に手をつく。扉は、ふっと通常通り開いた。
「・・・・」
 アルフォンスは、兄が普通に仕事をしていてまさか、と目を疑ったが、やるときは集中してしまう兄のことだ。彼の五時間なんてあっという間だ。
「大佐」
「・・・・」
「大佐!」
「・・・・」
「エルリック大佐!」
「・・・・」
「兄さん」
「おう!?」
 エドワードは、はっと顔を上げ呼ぶ人間を見た。
「おお、どうしたアル」
「まだ、ここは司令室だよ」
「ん?ああ、そうか。って、おまえが兄さんって呼ぶから・・・イテ」
 エドワードは腕が上がらないのか、顔をしかめた。数時間じっとしているため、腕が固まって動かないのだった。
「あれから、五時間たってるよ。仕事は・・・・・」
 アルフォンスが周りをみると、済んだ書類の束が多くなっている。
「ガネット少尉が心配していたよ。錬成して施錠してたから、また雲隠れされていたのでは、と」
「いや、集中したかっただけ」
 そういいつつ、エドワードはアルフォンスを見ず、動きの鈍い腕を動かしている。その様子をいつもと違うと感じたアルフォンスは、ふっと何かを感じて上を見上げた。
 すると、天井にびっしり描かれた、錬成陣と構築式。その隅っこに、何かの略図が。どうやら、チェスの戦略のようだ。
「こんなのいつ書いたの!?」
「あっ・・・と。そのぉ・・・」
「まさか。今日?」
「いや、今日だけじゃねーって!毎日少しずつ・・・」
「毎日少しずつ!?そのほうが問題だろ!」
「はい・・・」
「こうやって、僕のいないときにサボってたんだね!」
「でも、今日は仕事もしてるし・・・」
「今日はね」
「息抜きだよ、息抜き!書類ばっか見てたらあきるじゃん!」
「で?今日はこの戦略に何時間使ったの?」
「せ、戦略・・・?」
「ほら、これだよ。この隅っこの。チェスだろ?これ」
「あ」
「あ。じゃないよ!今日、将軍とチェスしてたこと知ってるんだからね!負けたから、考えてたんだろ」
「は、はい」
「それで?ここに何時間かかってたの?」
「えっと〜三十分?」
「正直に答えないと、あとで分かってるんだろうね・・・」
 黒い・・・黒いオーラが出ています・・・。エドワードは身の危険を感じて、正直に話す。
「さ、三時間です!」
「じゃあ、この書類は二時間でこれだけできたってことだね?」
「そういうことかな。俺って天才☆」
「あんたはやればできるんだから、やれ!あと二時間で全部だからね」
「・・・・・鬼」
「何かいった!?」
「いえ・・・」
 書類は床に置いて、積み上げると、エドワードの腿のあたりまである。
「僕は先に休ませていただきますので」
「ええ!?まっててくれないわけ?」
「どこまで甘えるの?」
「・・・・」
 エドワードは無意識に視線を下げる。そして、にかっと笑って言う。
「そうだよな〜。はいはい、がんばります。エルリック少佐はお休みください」
「そのつもり。じゃね」
 いつになくアルフォンスが冷たい。自分が悪いとはいえ、エドワードは唯一の理解者にそうされては、胸がズキンと痛む。
 でも、アルフォンスはそのまま、エドワードの個人の執務室を出ていった。
「はぁ・・・」
 一人になると考えてしまうのは、錬金術。集中する前にそれを考えると、ついそっちに思考がうつってしまって、書類に集中できないのだった。
「あ〜あ・・・・。集中できない」
 でも、このままじゃあアルフォンスの機嫌が一生直らない。それは、困る。大問題だ。
「よし!」
 自分を鼓舞するように、両頬をパシと叩いた。
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