-頂きもの作品-お持ち帰り、転載禁止。

□相互記念小説
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Put it to sleep
Night of a month.





窓辺で頬杖をついて、その先に見えるガラス一枚隔てた向こうの、地肌が剥き出しになった荒地を眺める。

今日は窓の外吹く風が一段と強い為、迂闊に窓など開けようものなら、部屋中が砂だらけになる事だろう。

あわや大惨事となりかねない。

「何をしている、寝ていろと言っただろう?」

そんな馬鹿げた事を考えていると、不意に、ガチャリというドアノブが回された音が耳に届き、ゆっくりと背後を振り返って視線をその音がした扉に向ければ、片手に盆を持ち、眉を吊り上げた如何にも不機嫌な顔付きの兄が立っていた。

「窓を開けて…部屋中を砂だらけにしてやろうかと考えていたんだよ」

「その惨状を片付けるのは俺か…」

ザエルアポロ・グランツは、やれやれと呆れた風に首を横に振る兄、イールフォルト・グランツをただ黙って見つめ、暫くしてから彼に軽い冗談混じりの皮肉を言い、何か言われる前に素直にベッドに戻る。

ザエルアポロは昨夜から、高熱を出し、更には酷い発作を起こして、今日丸一日、イールフォルトの看病を受けていた。

原因は恐らく、ここ数週間、ろくに睡眠も取らず、やれ研究だ、実験だのと無
理をしていた事だろう。

それが祟ったらしい。

藍染の計らいにより、藍染直属の給仕係が、今朝届けてくれた薬草をイールフォルトが煎じ、ザエルアポロはそれを飲んでから暫く仮眠を取った為、今はそれ程熱も高くは無く、発作は収まっている。

今ある症状は、未だ残る微熱で全身が気怠く、痺れているような感覚が僅かにあるだけだ。

しかし、ザエルアポロの事となると、特に心配性になるイールフォルトは、ザエルアポロがベッドから起き上がる事すら、良しとはしなかった。

薬草を煎じて作った薬と、薬を飲む前に、胃に何かを入れさせなければと作って来たミルクリゾットの入った小さな器の乗った盆を片手で器用に持ち、ザエルアポロが窓際からベッドに戻ったのを確認すると、イールフォルトはその盆をベッド脇のサイドテーブルに置いて、自身は何処からか引っ張って来たアンティーク調の椅子に腰掛ける。

「熱はどうだ?」

「もう充分に下がってるよ…藍染様のお陰でね」

イールフォルトが体調の程を尋ねれば、やはり素直では無いザエルアポロは、昨夜から寝ずに自身を看病してくれているイールフォルトの事など気遣いもせず、敬愛し、止まない上司への感謝の意を述べた。

それに対して、イールフォルトは特に何かを言う訳でも無く、寝起きで四方に跳ねたザエルアポロの薄桃色の髪を、くしゃくしゃと撫で回して微笑む。

熱が下がっただけでも、ひと安心だ。

このまま暫く、定期的に薬を飲んで、充分な休養を取れば、数日後には体調も回復し、また以前の様に研究だの実験だのが出来るようになるだろう。

「腹は空いていないか?食欲があるのなら少しでも食べた方が良い」

イールフォルトはサイドテーブルに置いた盆を取って、ザエルアポロに食事を進めた。





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