第二本棚

□昼食
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授業終了を知らすチャイムの音に僕は放り投げていた意識を取り戻す。
顔を伏せたまま机の上に手を滑らせ、指先に触れた眼鏡を引き寄せるとそれを掛け漸く顔を上げた。
黒板の文字に古典の授業だった事が分かる。

「……。」

がやがやと周りが五月蝿くて、他のクラスの奴等が無駄に多い。

机同士をくっ付けている光景にさっきのは午前の授業の終わりを告げるチャイムだった事に気付いた。
欠伸を噛み殺しながら横に下げているバッグを机の上に乗せて教科書数冊最低限のモノしか入っていないその中を探る。
ある筈のモノが無い。

「…弁当、忘れた。」

無意識にぽそりと呟いた。

朝、寝坊しかけて、慌てて出てきて、テーブルの上に弁当を置きっぱなしに出て来た、かも。
多分そうだ。
そもそもアイツが朝起こさないから悪いんだ。
あ、何かの当番で朝早いって言ってたっけ。
そんな事僕が一々覚えてないけど。

購買の混み様を想像し盛大な溜め息を吐くものの、背に腹は変えられずに仕方無いといった様子で購買に向かう事にした。

案の定、購買は全ての学年入り乱れた生徒で混んで居る。
何々が売り切れた、とか、後何個しか無いとか聞こえる。
勝ち取った昼食によし、なんてガッツポーズまで取ってる奴も居る。
自分がその中心部まで割り込んで、昼食に有り付くのはどうにも無理そうだった。
壁に寄り掛かりながら購買に群がる生徒を暫く見詰めているも、どうしようも無い状況に昼食を抜く事が強制的に決まる。

「朝は遅刻しなかったか?どうも弁当が忘れた様だが。しかも買い損ねて居る様だな…まぁ、お前があそこから買えるとも思えないが。」
「…何だよ。五月蝿いな。学校で話し掛けるなって何回言ったら分かるんだよ、アニ、…ッ、カス。」

話掛けられた声にそちらに顔を向けると購買に群がる生徒の様子を横目に見ながら焼きそばに噛り付きながら苦笑している兄貴が居た。
腹の立つ言い様にぶっきらぼうに返答するも包みを放られると反射的にソレを受け取る。
購買のメロンパンだった。それと、小さいパックの牛乳。

「お前、メロンパン好きだったろ。3年の教室は購買から近いからな。また低血糖起こして倒れるなよ?お姫様抱っこで下校だ。」

自分の吐いた科白にくつくつと笑いながら兄貴は3年の教室に戻って行く。
僕にひらりと手を一度振って。
背中目掛けて怒鳴ってやろうと思うも廊下である手前、そんな事出来ずに僕は突っ立ったままだった。


嗚呼…やられた。










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先ずはブログのネタより。

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