第二本棚

□結べない(弟)
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「おい、早くしろ。ザエルアポロ。」


そう声を掛けながら振り返り見ると首にネクタイを引っ掛け玄関で立ち止まったまま俺を見上げるザエルアポロが居た。
早くと急かす俺の言葉にも動き出す様子が見られない。
ある意味、この時期日課である行動。


「ネクタイ。」


ぽつと首に掛けているネクタイの端を摘まみひらひらと振りながらザエルアポロは言った。
その仕草に俺はドアを開けた状態で押さえていた手を離すとザエルアポロの元へと近付く。
ザエルアポロは俺を見上げるだけ。


「ネクタイが、どうした?」

「結べないんだよ。知ってるだろ。早く。」


まるで俺が結ぶ事がさも当然である様に言うザエルアポロに思わず苦笑を口許に滲ませつつそれをするりと取り上げる。
再び首に掛けられるネクタイにザエルアポロは顔を僅かに上げるも俺と視線を合わせようとはしない。
きゅと襟元にきちんと形良くネクタイを結んでやる。


「これで良いだろう。」


そう告げる俺の横をするりとザエルアポロは通り過ぎてドアを開けた。


「兄貴。遅刻するよ。」


口許に笑みを浮かべながらそう言いザエルアポロは一人学校に向かっていく。
その背中を追い掛けながら俺も学校へと向かう。



俺は知っているのだ。
体育授業の後しっかりとネクタイを結んでいるザエルアポロ、を。











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不器用な甘え方。

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