第二本棚

□結べない(兄)
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「おい、兄貴。早くしろよ。」


靴を履き爪先をとんと鳴らしながら後ろを振り返ると、Yシャツのボタンを2つだらしなく開けたまま首にネクタイを引っ掛け、唸っている兄貴が居た。
急かす口調で声を掛けてもそこから動き出す様子が無い。
待つ義理なんて無いのに律儀に兄貴を待っている僕は一体何なのだろう。


「なぁ、ザエルアポロ。何時も悪いんだが、ネクタイ結んでくれないか。」

「……。兄貴さ、3年にもなってネクタイ結べないってどうなんだよ。」

「夏服なら楽なんだけどな。Yシャツだけで。」

「それ、答えになってないぞ。兄貴。」


兄貴からの頼み事に僕は深い溜め息を一つ。
更に悪態を吐きながら僕は兄貴に近付くと首に掛けられているネクタイを引っ手繰った。
乱暴だなと小さく抗議する声が聞こえるも僕は一切反応を返してやらない。
だらしないYシャツのボタンを留める様に
指示を出すとネクタイを首に掛け直す。


「…何時も思うが、新婚みたいだな。」


僕の髪に鼻先を埋めてそう嬉しそうに呟く兄貴に頭を上げ頭突きを喰らわし、おまけにネクタイをきゅっと締め上げた。


「兄貴なんかこのまま遅刻してしまえ。」


そう吐き鼻を押さえている兄貴を尻目に僕はドアをきっちりと閉めて一人学校へと向かう。
背後から僕の名前を呼ぶ兄貴の声。
そんな声に嗚呼、今日も一日始まるんだと何処か安堵している僕が居た。










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本当に不器用。

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