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□相互記念小説
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ザエルアポロはそれに小さく頷いて、盆の上から温かな湯気を立てているミルクリゾットの入った器と、木製のスプーンを受け取ると、昨夜から何も口にしていない為、空っぽの胃の空腹感を満たすように、ミルクリゾットを食べ始める。
薄く味付けのされた丁度良い温かさのミルクリゾットは、暫く何も口にしておらず、熱で渇き、やや感覚の麻痺していたザエルアポロの口内にじんわりとほのかなミルクの香りと、舌の上にはチーズの風味が広がり、ザエルアポロはその味に自然と顔を綻ばせた。
「兄貴はモッツァレラが好きだね…」
「…そうか?いや…そう言われてみればそうだな」
今、ザエルアポロが食しているミルクリゾットの中に入っているチーズは、何種類かあるが、その中で、米の食感とは違う弾力性のある、柔らかな噛み応えのチーズは、モッツァレラチーズだ。
「普通はモッツァレラなんか入れないだろ…」
本来、ミルクリゾットに入れるチーズは隠し味程度のもので、形の残るものは入れない。
火にかければ溶け、リゾットのスープに馴染むチーズがミルクリゾットには最適だ。
イールフォルトの食の好みがそのまま反映されたようなミルクリゾットは、ザエルアポロにも馴
染み深いメニューでもある。
もう、思い出す事も困難である程の遠い昔にも、こうして、イールフォルトが寝ずに自身の看病をしてくれていた事を、ザエルアポロは思い出した。
何を作るにも、チーズを入れられるメニューならば、必ずと言って良い程、イールフォルトはモッツァレラチーズを入れた。
それが原因で、言い争った夜、珍しく頭に血が登り、カッとなって喚き散らしたせいか、ザエルアポロが知恵熱を出して寝込んでしまった夜も、こうして看病をしてくれていたのはイールフォルトだ。
可愛いらしさの欠片もない、ふてくされたような悪態を幾ら吐いても、イールフォルトは決してザエルアポロを見捨てはしなかった。
優しく、その筋張った大きな掌で、熱に浮かされ、火照った頬や額を、そっと撫でてくれる。
全身の体温は、まるで子供のように高いくせに、何故かその掌だけは冷たくて、心地が良かった。
「モッツァレラチーズは食べると幸せになる」
「ハハッ…それは、兄貴だけだよ」
「そんな事はない、現にお前だって、今、笑っていたじゃないか」
イールフォルトの可笑しな持論を聞き、無意識に笑顔を見せていたザエルアポロは、それをイールフォルトに指摘され
、羞恥に頬を染めて俯く。
そして、照れ隠しのようにミルクリゾットを黙々と胃に流し込んだ。
空腹を満たされた腹は、丁度腹八分目といった所か。
心地良い満腹感に目を細め、ザエルアポロはひと息吐くと、ミルクリゾットの入っていた器と引き換えに薬を渡された。
グラスの中の薄緑色の液体は、薬草を煎じた物を、飲みやすくイールフォルトが煮詰めた砂糖水と混ぜ合わせて作ってくれたものだ。
しかしながら、もとが苦味の強い薬草である為、その独特の苦味と砂糖水の甘さが混じって、何とも言えない飲み口である。
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