第二本棚

□理解不能
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理解出来ない。
嗚呼、何故こんな事が、






寝台へでは無く解剖台に兄の身体が乗せられる。
直ぐ近くまで歩んで行っても目を開く素振りを見せない。
ただ、其処に在るという表現が正しいように思える状態。
それで居て、自らの脳がその事を理解したくは無いと訴えかける。

軽い眩暈と鼻腔奥に土の微かな香りを感じた気がした。





「兄貴、とっくにこの虚圏の天蓋には日が昇って…既に、沈み掛けているよ。もう直ぐで夕食の時間だ。全く、何時迄寝て居るんだ。僕よりも寝坊なんて兄貴らしくないよ。…妃が王子にキスをして目覚めるなんてそんな御伽噺は無い筈だけど。それとも、僕が知らないだけなのかな。」



流れるように綺麗だった髪が所々焼き千切れている。
そっと裂傷のある左頬に指先を触れさせる。
布越しでありながらに、分かる。



「…冷たい。まるで、水浴びをしたみたいだ。もう、水牛じゃないんだから。ねぇ、幾ら作りが頑丈な兄貴でもそんなに体温が下がって居たら、風邪をひいて仕舞うよ。それにこの傷の手当てもしないと、さ。痛むだろう。鎮痛剤を先に打っておいた方が良いかな。」



頬から首筋を辿り、腕へと触れる。
硬い感触。筋肉のそれとは違う。

悪寒。
嗚呼、普段この台に乗せているモノと同じ。
冷静に呟く声が脳に直接落ちる。



「ね、兄貴。いい加減、起きなよ。一緒にお風呂入ろ?兄貴の好きな桃色の、僕の髪と同じ色の入浴剤を溶かして。それで温かい食事を一緒に…。」



強引に起き上がらそうと首の後ろに腕を差し入れ力を込めるとぐたりとその身体はしな垂れ掛かり、その重みを支え切れずに床に座り込んだ。



刹那、脳内を流れる夢の様な映像。










色取り取りの花や_の好きだった本、それらが箱入った箱に詰められる_。



「どうして、こんな狭い箱に_さんを閉じ込めるんだよ!こんな事をしたら_さんが目を覚ました時に起きられないじゃないか!」



喉が痛む程に声を上げて、押さえ付けようとする腕を振り払おうとするも非力な_は、虚しく自由を奪われる。
瞳は箱に詰められた_を必死に見詰める。



「嫌だ、イヤだ、いやだ…ッ!どうして!土に_さんを埋めるんだ!窒息して仕舞うだろ!そんな事も…止めろ、離せ!」



瞬間乾いた音が一つし、頬に痛みが走った。
流れ落ちる涙。










目の前の此れが、理解したくも無い現実。
そう、二度目の、





「あ、に、……兄さん、目、開けてよ。僕の声が聞こえないの?どうして?僕、…僕ね、兄さんが居ないと駄目なんだよ。兄さん何て要らないって何度言ってたけど、あんなの嘘なんだよ。そんな事、知っているでしょ?…ねぇ、研究とか実験ばかりじゃなくて、ちゃんと食事も睡眠も摂るようにするよ。ちゃんと、ちゃんと、いいこにするから…だから、もう、僕を独りぼっちにしないでよ。に、さん……っ」





8の宮に響くのは掠れたその宮の主の声。











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拍手お礼小説第八弾。
イールフォルト死にネタ。使い古された感有り。

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