第二本棚

□アイス
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「どうしてわざわざ俺の自室で涼んでいるんだ?兄弟。何時もは6の宮に来るのを嫌がっていただろう。」

俺自室、唯一の冷房の前で後ろ髪を紐で適当に括りながら棒付きアイスを舐めているザエルアポロ。
声を掛けると首だけを回しこちらの方を向き、唇を端から端まで舐め終えると漸く口を開いた。

「うちの馬鹿が冷房を壊した所為で、今、下級破面共が復旧作業中だ。そうでなければ誰がこんなところに居座るかよ。」

そう一気に言い終えるとフン、と鼻を鳴らし冷房の方に再び向き直った。
その可愛らしくない態度に思わず行く場所が無いのか、と言葉を零しそうになるも何とか飲み込んだ。
ザエルアポロは冷房の風に揺られる前髪が邪魔なのか時折首を横に振ってはアイスを口許に運ぶ。
俺はわざとらしく深い溜め息を一つ。

「こんなところで悪かったな。というか、勝手にアイスを持ち込んで占領するな。」
「一々五月蝿いぞ。それと、視界に入るな。お前を見ていると暑苦しい。」

部屋に備え付けられているお世辞にも大きいとは言えない簡易冷蔵庫を開けるとびっしりザエルアポロが食べているアイスが詰め込まれていた。
牛乳味、らしい。しかも濃厚。何かの嫌がらせか。
髪を視線で示しながらの厭味たらしい言葉を受け流し、ザエルアポロの顔の見える位置を陣取り、頬杖を付きながら顔を眺める。
ある程度快適な場所を与えてやっている俺の扱いに対しての、嫌がらせの意味合いを込めて。
ザエルアポロはちらりと俺の顔を見ると眉をぴくりと寄せた。

「…何だよ。言いたい事があるなら言えよ。急に黙るな気持ちが悪い。」

黙れば黙ったで、何とも我侭な言い草だ。
アイスを口から離しそれを俺の方に向けながら文句を吐く。
ぽたりと垂れるアイスに、あ、とザエルアポロは小さく声を上げるものの元から拭くという考えは無いらしく放置された。

「アイスをそんなちまちまと食うな。溶けて垂れてきてるだろ。後で片付けるのは誰だと思っているんだ、お前は。」
「一気に食って頭が痛くなるのが許せないんだよ。片付け位やってくれたって良いじゃないか。任務でヘマした時の傷は誰が治してやっていると思ってるんだ、お前は。」

それを言われるとどうにも言い返せない。
眉を潜めたまま暫し口篭もっているとザエルアポロは勝ち誇った様な顔になった。
指先まで溶けて垂れてきているアイスに気付き木の棒の部分に舌を這わせ舐め満足気に咥える。

「お前の食い方はエロイ。」
「っ…、ハ…?馬ッ、鹿じゃないのか?」

溶けたアイスをじゅ、と音をたてて吸い上げていたザエルアポロは予期せぬ言葉に目を見開きながら噎せかけた。
途端に言葉の示すところが脳裏に浮かんでいるらしく顔を歪める。

「それは誘って、…ンぐ。」
「…自宮に帰る。兄貴のカス。死ね。」

今まで食べていたアイスを更に言葉を続けようとしていた俺の口に無理矢理押し込んできた。
変な声を上げた俺を思い切り睨みつけるとそのままザエルアポロは宮を出て行った。

急に静かになった部屋、余りにも初心な反応を思い出し一人肩を震わす。
口の中に広がる彼奴と同じ味の甘たるい溶けたアイスを飲み込んだ。










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一年越しのアイスネタ。

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