第一本棚

□闇と光
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気が付けば闇の中独りぽつんと取り残されていた。
真っ暗なのに自分の手足は確認出来る。
手を伸ばしてみるも一体何処まで続いているのか分からない。

ここは、何処?

生温い風が後ろから吹いた気がした。身体にぬらりぬらり纏わり付く様な気持ちの悪い感覚。
ここから逃げなければならないと本能的に感じた。
足を前へ前へと踏み出して行く。地面はある。

見えない先に進むにつれて後ろを振り返る事が出来なくなっていた。音もしない、自分の足音すらしないのに何が迫ってきている気がする。
歩調が段々速くなる。普段そんな事に筋肉を使わない為か暗闇の所為で平行感覚が狂っている為か足が縺れてしまい、そのまま前に転んだ。
床らしきものに手を付いて立ち上がろうとするも触れた指先から闇が這い上ってくる気がする。
ひっ、と喉を引き攣らせるとまるで藻掻く様に立ち上がり前へ前へと足を伸ばす。

怖い 怖い 怖い

このままでは得体の知れない闇に囚われ飲み込まれる。
必死に助けて、と名前を口にした。自分の声が聞こえない。
何も見えない闇へと手を伸ばし何も掴む事も触れる事も出来ずに虚しく空を掻く。
服の裾をぐっと後ろへと引かれる感覚。何かに纏わり付かれている様に身体が重い。振り向くなんて出来やしない。
ただ逃げる様に足を前へ。

再度手を伸ばした瞬間何処からか伸びてきた白い手に自分の手首を握られる。
自分の手を握るその部分しか見えないその誰か、は力強く身体を引いてくれる。
懐かしい様な感覚。
前に小さな光が見えた。ほんの小さな光。
しっかりとその手首を掴むと、その名前を。

「……ールフォルト兄さん…!」

目の前にはよく知った兄の顔が苦笑を浮かべていた。握った手首と呼んでしまった名前に、とても居心地悪く視線を逸らした。

僕は自宮のベットの上に居て、辺りは薄暗くて窓から差し込む偽りの月が兄の髪をキラキラと煌めかせていた。

「怖い夢でも見たか?随分魘されていたぞ」

悪夢で魘されて、兄の名前を呼んでしまい、あまつさえ本人に聞かれてしまうとは。自分でも恥ずかしいと思うのに未だ心臓は速く鳴り掴んだままの手を離せずに居る。

「何で僕の宮に居るの。不法侵入だよ」

今の顔なんてきっと酷いものだから見せられず、見られずにそれでも何時もの調子を装い悪態吐くと、うーんと困った様な声を漏らした。

「それは…だなぁ」
「罰として僕の枕になれ」

不法侵入犯の兄の返事なんて待たないままに掴んでいる手首をぐいぐいと引っ張りベットへと引き寄せると、ふ、と兄から笑いが漏れたのが聞こえた。

「罰だから」
「あぁ、罰だな」
「そう、罰だよ」

優しげに微笑みながらベットへと入ってきた兄には握られたままの手首を解放する様に柔らかく解くと僕を引き寄せ腕枕をしてくれた。僕はいつもさらけ出している素肌に顔を寄せるとそのまま眠る事にした。

「おやすみザエルアポロ…今度は良い夢を見ろよ。もしまた、悪夢なら俺が救ってやる…何度だってな」

眠りに落ちる寸前に兄の優しい声を聞いた。
何を偉そうに、と思ったが声も体温も与えられるもの何もかもが心地良いので不当にする事にした。










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兄はきっと弟の霊圧の揺れを感じたのだと思います。双子並に敏感だと良い。夜這いではありません。きっと。



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