第一本棚

□じゅーんぶらいど
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弟が全く泣き止まない。
幼稚園から帰ってきて、俺の顔を見ると「おにいちゃん」と小さな声で呟き急に声を上げて泣き出した。
俺はどうしたら良いか分からずにボロボロ次から次へと涙を流す大切な弟をただ抱き締めた。

普段はあまり感情を表に出すのは苦手な弟。
幼稚園児のくせにプライドは一人前で、絶対に人前では(しかし俺だけはその例外らしい)泣かない。
でも一度泣いてしまうと、もうどうにもならない。
うわぁんうわぁんと声を上げてただただ泣き続ける。
一体何処にそんなに泣き続ける体力があるのだろうか。

桃色の髪を、泣き声に震える背中を、何度も撫でてやっていると少しずつ泣き声が小さくなってきた。
まずは一体何があったのか理由を聞かなくてはならない。

「一体どうしたんだ?誰かにいじめられたのか…?」

確か、同じクラスにノイトラとかいう目付きも口も悪い奴が居ると弟に聞いた。
問い掛けに俺の服から顔を離し(着ていた服が涙でびしょびしょになっていた)2,3度首を横に振ると真っ赤になった顔ですんすんと鼻を鳴らしながら見詰めてきた。
俺は腕を伸ばしティッシュボックスをこちらに引き寄せると目元と鼻を拭いてやった。

どうやら違うらしい。
どちらかというと弟はチクチクと心に刺さる様な言葉で畳み掛けて相手に反論させずにいじめる側だ。
我が弟ながら、今後の成長が少し怖い。

「あのね。ノイトラが」

やはりノイトラが関っているらしい。
大事な弟をここまで大泣きさせる奴を一度絞めてやろうかという考えが過ぎったが、幼稚園児相手にあまりにも大人気ないので気持ちをそっと押し込めた。
これがもう少し年上なら、きっと今日の夕刊か明日の朝刊には記事なるかもしれない様な事をする自信があった。
本当に大人気ない。大人気ないとは思うのだがそれ程大事な弟なのだ。

「おにいちゃんとはけっこんできないって。おとことけっこんするのはおかしいっていったの」
「…は?」

全く予想をしない回答に思わず間抜けな声を出し手に持っていた涙に濡れたティッシュをぽとりと落とした。

今、この弟は何と言った?俺と結婚?

一瞬、女と見間違う様な大人に成長した弟がウェディングドレスに身を包み「誓います」と言い、俺に微笑み掛けているところを想像してしまった。
拙い。似合い過ぎている。

「は?じゃないの!ぼくおにいちゃんのことスキだもん。けっこんってスキなひととずっといっしょにいるためのしゅだんなんでしょ?だから…!」

弟は俺の反応が大層気に入らなかったらしく興奮して腕の中で短い手足をばたつかせた。
自分が俺に告白している事にも気付いていない様子だ。
俺はそんな事で泣いていたのか、とばかばかしさ以上の愛しさに思わず笑ってしまった。

「なんでわらうんだよ!」

むすっと顔を顰める弟にべしっと胸元を叩かれ一喝されてしまった。
嬉しかったんだよ、と素直に言ってやると不機嫌そうな顔がすぐに消えて恥ずかしそうにしだした。

「けっこんできないなんてウソだよね?ノイトラのバカがなにもしらないんだよね?」
「男同士結婚出来ないわけじゃない。が、流石に…兄弟は無理だな」

言葉の途中までほら、やっぱり僕は間違っていなかった、という顔をしていたものの「…え」という声を上げ、言い終わる時には絶望した様な顔になっていた。
また今にも泣き出しそうになっている。
ひっくひっくと身体を上下に震わしまたしゃくり上げ始めてしまった。

「でも」

一呼吸置いて否定のそれを口にすると続きの言葉を待つ様にじっと見詰められた。
縋る様に見えるこの弟の視線が心地良いなんてほんの少しだけ思ってしまっていた。

「結婚なんかしなくともずっと一緒に居る事は出来るよ。俺達はずっと一緒だ。離れる事は無いよ。だから泣き止んでくれ、ザエルアポロ」

弟はおにいちゃん、と嬉しそうに呼ぶと力いっぱい抱き付いてきた。
その小さな身体をふわりと抱き留めると絶対にこのぬくもりを離したくはない、誰にも渡したくはない、と改めて思った。









「ねぇ、ねぇ、おにいちゃん。もしぼくがきるなら、しろむくとウェディングドレスどっちがよかった?」
「俺は断然ドレス派だ」











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グランツな番号(815)を踏んで下さった桜葉緋白様へ捧げるリクエスト小説。
「生前ネタで泣いてるアポロをあやすお兄ちゃん」とのリクだったのですが、最早あやしてない上に兄というよりは父…大丈夫でしょうか?

桜葉緋白様のみお持ち帰り可で御座います。

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