第一本棚

□二部構成劇
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「好きだ、愛している、だなんてよくもまぁ馬鹿の一つ覚えみたいに云える」
「好きだ。俺はお前を愛している、ザエルアポロ」

俺は飽きる事無く、殊更真剣な表情を浮かべてその言葉達を口にする。
ザエルアポロは額を片手で押さえると盛大な溜め息を吐き出した。

「五月蝿い、聞き飽きた、というのが分からないのかこの低脳が。全く、お前の脳が一体どう愚鈍に出来ているのか知りたいものだ。…あぁ、僕の実験体と成ってみるかい?其れならば歓迎してやるよ」

暫しの間の後に急に思い付いた様に声を上げた時の表情は狂科学者の其れだった。
手の平を上に向け差し出し、どうだ?と俺に誘い掛ける。

「お前の実験体か、悪くは無いな。脳を弄られて、実験体として扱われた後に待っているのは俺の…イールフォルトというモノの本質的消滅か?」

その手を迷う事無く取り指先をそっと掴み甲を向けさせると騎士の行為、其れを真似て唇を触れさせた。

「…ハッ。脳を弄った位で実験体を壊すか、このカス。僕を誰だと思っているんだ」

どうやら我が妃のお気に召さなかった様子だ。
汚い物を見る様な目で俺を見下す視線を向けると唇が触れた手をこれ見よがしに払った。

「俺にはお前の様に取り分け、秀でた能力が有るわけではないからな。今も惰性で生きている様なものだ。この二部構成だった稚拙な劇も最後の幕引きがお前ならば、俺は其れでも良いと思ったのだが?」

相手の好む、劇を主体とした科白の言い回し、演技染みた所作で饒舌に語って遣る。

「……クハ、ハ、お前にしては面白い物言いをするな。兄貴、少しだけ気紛れに付き合って遣るよ」

損ねられた機嫌は向上したらしくザエルアポロは笑い声を上げた。
俺も其れにつられて笑った。




「好きだザエルアポロ。俺はお前だけを愛しているんだ。お前だけで良い」
「そんな科白はもう要らない。口を塞いでしまえばもう言えないだろ?」





――暗転。










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拍手お礼小説第四弾。
何時もとは趣向を変えて真面目に。
科白も何時もに比べ無駄に長い。

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