第一本棚

□-2000-
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僕の恋人は、兄で在るイールフォルトグランツ。
僕に(あいつの好む「兄弟」の言葉を用いるなら僕が)似て見目だけは綺麗。
其れだけが取り得の兄。
其れだけが僕と同等。
其れ以外は全てこの僕に劣る。


嫌い、では無い。好いているからこそ傍に居させてやっている。
愛しているか、と聞かれればきっとそうなのだと思う。

…多分。根拠が無い。

そういう感情はとても曖昧で分かり難い。
目には、見えない。
しっかりとした形で見られない其れを科学者たる者、肯定しては為らないとは思う。
だが同時に完璧な否定をする事が出来ない自分も居る。
長い時間の中、存在しているこの僕にも分からない物が在る。
此れに関しては、(かなりの妥協を要して)有耶無耶でも良いと思えてくるのだ。





頬の横を滑らかな線を描き下へと流れる様な金糸を指先に絡め引き寄せると、舌を伸ばしながら其れを唇で食みながら弄ぶ。
口の端をゆっくりと横に引き笑みを象りながら上目に見詰めて遣る。
イールフォルトの赤みがかった瞳は細められ、喉が静かに上下に動くのが視界に映った。

そんなのは計算のうちだ。


お前は僕だけを見ていれば良い。
お前の世界の中心が僕で在れば良い。
お前の全てが僕で埋まってしまえば良い。

其れ等をこの僕が許してやる。


中指と人差し指を両頬に添えて、顔を一段と近付けて遣る。
額と額が触れる。

僕の視界には、イールフォルトだけが。
イールフォルトの視界には、僕だけが。


イールフォルトは僕の背中へと回していた腕をするりと腰へと滑り落とした。
腰へと触れる指先に力が込められる。


「まだ、だ。焦るなよ、イールフォルト兄貴」


分かり易過ぎる反応に思わず、ふ、と短い息を漏らす。
刹那、イールフォルトの肩が揺れた。





僕の唇とイールフォルトの唇が触れ合うまでの距離、実に"2000"o。










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2000HIT記念フリー配布小説(現在はフリーではありません)

何処が記念?という突っ込みは入れないであげて下さい。

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