第一本棚
□七夕
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「なぁ、ザエルアポロ、現世の七夕というのを知っているか?」
「ん…まぁ、知識的には。一年に一度しか逢えない恋人の話、だっけ…?何にせよ、兄さんが好きそうな話じゃあないか」
何かの資料に目を遣っているザエルアポロの背中にソファに陣取っているイールフォルトが声を掛けると、珍しく話題に興味をソソられたのか手にしていた其れを机へと投げ、椅子を半回転させると身体の向きを変えた。
眼鏡を模した名残を指で押し上げながら首を傾け、口許には微笑を携えて。
「いや、俺は余り好きじゃあ無いな。確かに美談だ。悪いとは思わないが」
「嗚呼、其れは意外だね。どうしてだい?」
イールフォルトの返答がザエルアポロの中で用意されていたものとは違っていたらしく眉を上げた。
興味が有る、という表情を浮かべると腰掛けていた椅子から立ち上がりイールフォルトの座るソファへと身体を移動させていく。
同時にイールフォルトは身を横へとずらして遣り、ザエルアポロの座る為の空間を空けて遣った。
「一年に一度何て、酷過ぎるだろう?」
「嗚呼…、確かに、ね」
イールフォルトは顎に手を当てると短い唸り声を上げ、ザエルアポロへと同意を求める様に言葉尻を上げ調子に声を発した。
その言葉にザエルアポロは僅かばかりの否定もせず、一度頷いて肯定して見せた。
「俺には耐えられ無いな。一年に一度の逢瀬等…」
「…兄さん、何て難しい顔しているんだ。僕は此処に居るじゃないか。ほら、この手で触れられるだろう?」
至極真剣に言葉を語るイールフォルトの表情にザエルアポロは、ふ、と笑いの息を漏らすと未だ顎に添えられてたままの手を取り自分の頬へと寄せ触れさせた。
イールフォルトはその仕草、言葉に表情を緩めると己よりも白い柔らかな肌の感触を、此処に在るという確かな存在を確かめる様にザエルアポロの頬を撫でる。
そのままそっと指先を滑らせていきザエルアポロの顎に添えると目を細め息が掛かる程に距離を詰めた。
「そうだな。お前は此処に居る。……嗚呼、我が愛しい妃よ、此処に在る物にすら気付けなかった愚かな王子の口付けを受けて貰えるか?」
「クハ…っ、どうぞ?愛しい王子の口付けをこの唇で受けようじゃないか」
ザエルアポロはイールフォルトの科白に思わず笑い声を上げると愉しそうに口端を持ち上げ、どちらからとは言えない、示し合わせた様に唇が触れ合った。
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七夕位はとてつもなく甘くても良いかと思いました。
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