第一本棚
□据え膳を喰わねば何とやら
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たまには兄弟で杯を交わすのも佳いと思い立ったわけだ。
別にザエルアポロを酔わせてしまい不可抗力を佳い事に色んな事をして仕舞おう何て考えは毛頭無い。
あわよくばそのままベッドに運んで……、何てつもりも無い。
…何?
色々言葉を並べている辺りが言い訳がましい?黙れ。
ザエルアポロは辛いものが苦手だったと記憶していたので俺は甘めの缶のカクテル等を持参して部屋へ向かった。
「起きているか、兄弟?」
「…兄貴か。何の用?」
俺は手に持っていたカクテル等を見せると意図を理解したらしくザエルアポロは口許に笑みを浮かべた。
珍しく機嫌が良い様で直ぐに俺を部屋へと招き入れる仕草を見せた。
「乾杯、何て下らない事はしないだろう?」
「特に祝す様な事も無いしな。
まぁ、今宵も美しいお前に乾杯、ってところでどうだ?」
「…既に酔ってるのか、お前」
ふん、と馬鹿にした様に鼻を鳴らしながら俺がザエルアポロの為にと用意していたピーチのカクテルに手を伸ばしプルタブに指を掛け開けると飲み出した。
お気に召したらしく口端には笑みを浮かべている。が、口は悪い。
俺はグレープフルーツのチュウハイに手を伸ばした。
あまり酒に強かった記憶の無かったザエルアポロは1本目飲み切ったところでほんのりと桃色に肌が紅潮し始め、2本目を半分飲んだ頃には目に力が無くなってきていた。
「お前、大丈夫か?」
「ん……、何がだい?」
反応が遅い。
缶に向けていた視線がゆっくりと俺へと向けれると細い首を傾げる。
それなりに兄弟の会話らしい会話をして愉しめたこの時間を俺の無粋な欲望で壊すのもな、と思い始めた時にこれは少々キツい。
取り合えず此処等でお開きに、とザエルアポロが手に持つ缶に手を伸ばした。
「その辺にしておけよ」
「…いや、だよ」
手を伸ばす仕草を見たザエルアポロがふいっと身体を逸らした。
口調が何時もよりも幼く聞こえる。
拙い、可愛過ぎる反応だと思う。
両手で缶を持ち、ちびちびと唇を缶に付け飲んでいる。
別に一気に飲め、とは言わないが如何してこうも一々ソソる仕草なのか。
緩慢な動きでザエルアポロが立ち上がった。
「どうした?」
「……トイレ。聞くなよ、もう」
唇を尖らせてそう言うと不確かな足取りで姿を消した。
色々と保たないかもしれない。
本気で。
あー、だのんー、だの呻き声を上げながら俺が色々な物と葛藤しているとザエルアポロがトイレから戻ってきた。
先程まで向い合う様に座って居たというのにわざわざ俺の隣に腰を下ろした。
間違って、という訳では無いらしい。
ザエルアポロはちらちらと様子を伺っている。
席を立っている間に缶を取り上げて置けば良かったと後悔し始めた。
ザエルアポロはまた缶を両手に持つと飲み出した。
出来るだけ色々拙い状態のザエルアポロを見ない様に遠くを、棚に並んでいるグロテスクな訳の分からない何かを見る様に心掛けていた。
そんな努力も虚しくザエルアポロが不意に俺の身体に寄り掛かってきた。
「お、おい。ザエルアポロ?」
「兄さん…暑い…」
音が聞こえる様な勢いでザエルアポロを見ると、顔を真っ赤にして上目に俺を見詰めている。
口は薄く開いたままとろんと蕩ける様な目で。
嗚呼、これは俺に服を脱がせという事なのか。
そういう風に受け取って良いのか。
拙い、酒の所為もあるが頭が回らない。
というか俺にはそれ以外が浮かばないのだが。
据え膳を喰わねば男の恥だと、突っ込むな。
寧ろ俺がザエルアポロに突っ込みたいんだ。
葛藤の末に行動に移そうと見ると、
俺に寄り掛かったまますぅすぅという小さな寝息を立てて眠ってしまっているザエルアポロの寝顔があった。
手に持っていた缶をテーブルの上に置くと両手で頭を抱え、俺は盛大な溜め息を吐き出した。
気持ちを健全な方向に切り替えるのに時間が掛かったがザエルアポロの身体を抱えてやると寝室へと運び、ベッドへと寝かして遣った。
何と優しい兄だろうか、と己で褒めて遣ったものの欲には勝てずにこれ位は許容範囲だろうと一度だけキスをした。
その後は聞くな、そんなもの俺はトイレへと直行だ。
独り虚しく、……。
次の日、ザエルアポロには俺が飲酒禁止命令を出した。
「別に好き好んで飲むわけじゃ無いから、…まぁお前となら飲んでも良いけど。酔ったらまた介抱してくれるんだろう?」
口端を上げながら愉しげなその様に一体何処からが、とザエルアポロにこれからも振り回される日々が続く事を俺は確信した。
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お下品。
ザエルアポロは演技派です。
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