第一本棚
□互いに互いの物で有れ、と
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ザエルアポロが急に俺の衣服の前合わせ部分を両手で掴んできた。
一体どういうつもりなのか。
そのまま気道を圧迫するわけでも無く、ただ俺の衣服を握り締め掴んでいる。
表情は伏せられている為に窺い知る事が出来ない。
「どうした」
僅かながらの困惑の色を込めて声を掛けるも反応は返ってこない。
不意にザエルアポロは額を俺の胸元に、衣服を握り締める手にと押し付けた。
肩が微かに震えている。
く、と小さく漏らされる声が耳に届いた。
泣いている。
腕をザエルアポロの背へと回して遣り、慈しみを込めながら撫で下ろしてやると、途端に身体が強張った。
余計な事をするな、という意思の表れだった。
俺は構わずに華奢な身体を抱き竦めた。
拒絶なのか衣服の上から胸元に爪を立てられた。
「僕は…、お前は誰の物だ…?」
「俺、達は…」
「藍染様の、と答えたらお前をこの場で殺す」
「……」
先に答え様とした其れを封じられては会話が成り立たない。
俺は閉口せざるを得なかった。
想定の範囲内である安直な答えしか考え浮かばない俺は、ザエルアポロにとって何処までも愚鈍な存在であろう。
「お前は僕の物だろう。其れなのに何故、…」
何も発さずに居た俺に苛立った声色で言葉を吐くも、続くであろう言葉は堪えながらも漏れてしまったらしい小さな嗚咽に寄って消された。
きっと此れは俺がザエルアポロと共にでは無く、グリムジョー等と共に居た事を責めて居る。
「お前の全てをこの僕に寄越せ。勝手にその身体を傷付ける事は許さない。お前を構成する全てが僕の物だ。代償に僕を呉れて遣るから。……、十分だろう…?」
胸元に押し付けていた顔を離し涙に濡れる瞳と零れ落ちそうになるそれを堪える様に寄せられる細い眉。
口調とは裏腹な縋る様な眼差しを向けられる。
弟の発す其れは全て、狂おしく愛しい独占欲。
互いに互いを支配し合い、互いに互いの物で有る、なんて一体どれ程に…
幸せであろうか。
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お前を所有物にしたい。
お前の所有物にさせて。
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