第一本棚

□温さと暖かさ
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何の用もある訳では無いが俺の足を8の宮にと向かっていた。
確証は無い、ただ何と無くだが胸騒ぎの様な物を感じていた。

ザエルアポロの自室の前に着き、手の甲でノックをする。
一度。二度。
室内から何かしらの反応も無い。

だが、ザエルアポロの霊圧は部屋の中から感じられる。
中に居るのは確実なのだ。
勝手に入れば罵倒の文句でも浴びせられるだろうか、と思ったがそんな物今更だと扉に手を掛けると中へと入っていた。

視線を巡らせるもザエルアポロの姿は無い。
研究室の方に居るのかと思ったが、霊圧はそれよりも近い場所で感じられる。
ザー、という音が耳に痛い。
一体何の音だ、と耳を澄ませば水の流れ床を叩く音の様だった。
俺は浴室へと足を向けた。

曇りガラスになっている扉の前に立ち中を見るもザエルアポロの姿が見当たらない。
しかし何故水を出したままにしているのか。
扉を開けるとシャワーが壁に掛けられたまま水が出続けタイルの床を叩いていた。
コックを捻りそれを止める。

ふと湯船に視線をやるとザエルアポロが居た。水の中に。

目を見開き温いその浴槽の中に両腕を突っ込むと身体を引き上げた。
未だ体温は残っている。
脈も残っている。
しかし呼吸している素振りが見られない。

水死なんて十刃の名が泣くぞ、と言葉を漏らしながらタイルの床にその身体を寝かせて、人工呼吸をと顔を寄せた。

刹那、後頭部に手を回され引き寄せられ、唇を押し当てられると肺の空気を奪われた。
見れば目を薄っすらと開き口端を愉しそうに引き上げているザエルアポロの顔があった。
唇を離すとはぁ、と息を付く音が聞こえる。


「何を、しているんだ。お前は。」


問い掛けた俺には至極嬉しそうな表情を浮かべタイルの床から緩慢な動きで起き上がると暖かさを求める様に常より下がった体温の身体を寄せ抱き付いてきた。
首に腕を回してくると肩に顎を乗せ唇を耳許に近づけてくる。
体温の下がった唇が耳にと触れる。


「兄さんなら僕が死ぬ前にきっと見付けてくれると思ったんだ。予想通りに兄さんが来てくれたから、僕は嬉しいんだ。有難うイールフォルト兄さん」










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拍手お礼小説第六弾。
一人かくれんぼ。
兄さんが見付けてくれるまで半永久的遊戯。

ある意味やおい(やまなし、おちなし、いみなし)

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