第一本棚

□賞賛と名前を
1ページ/1ページ




研究に没頭し何日目か分からない徹夜明け、ザエルアポロは研究の報告書を藍染に提出した後に自宮には戻らず6の宮に足を向けた。

身体がふらふらとして重いのか、軽いのかが酷く曖昧な状態。
白しか無い見慣れた筈の景色に色彩感覚を奪われたような錯覚にさえ捕らわれた。



部屋の前に立ちノックをしようと片手を持ち上げると、その瞬間に扉が開いて中の主が顔を見せた。


「…やはりお前か。藍染様への報告はどうした。もう、」

「終えたよ。」


部屋の主、イールフォルトの問い掛けの言葉を言い終える前にザエルアポロは発せられるであろう続きを予測して返答した。

不機嫌そうなそれでは無いものの眉を微かに寄せているイールフォルトの顔をぼんやり眺めているとザエルアポロはくらりと身体がふらつき白と金と黒を収めていた視界が一瞬真っ暗になった。
嗚呼、拙いと思い身体を痛みに、衝撃に堪えるように強張らせると、イールフォルトの腕に寄って抱き留められた。


「一体何時から寝ていないんだ、お前は。」


はぁ、と溜め息混じりにの呆れたような声がザエルアポロの頭上からした。

そのままイールフォルトはザエルアポロの身体を片腕で支えたまま体勢を反転させ後ろ手に扉を閉めた。
複雑げな表情を浮かべるザエルアポロの表情を見詰めながら身を屈めると膝裏と腰に腕を回し抱き上げ了解も得ずに寝室へと向う。



寝台にザエルアポロの身体をゆっくりと下ろしてやると首に腕を回したまま離れようとしない様子にイールフォルトは仕方ないという形ばかりの表情を貼り付けながら自らも寝台に乗り上げた。


「…研究は成功だ。」


ザエルアポロは首に両腕を回し肩に顎を乗せ金糸を唇で緩く食みながらぽつりと告げた。
イールフォルトは腰に添えるように回していた片腕をそこから離し、骨の浮いている背を辿りながら滑らし上げると癖のある桃髪を撫でた。


「流石、だな。藍染様もお前の頭脳を買って下さっている。」

「そんなんじゃ足りない。もっと。」


首に回した腕の力が増し僅かに息苦しさを感じるもののイールフォルトはその求める言葉に口許を綻ばせると顔を横へと向け桃髪に隠れた耳を探り当てると耳許に唇を寄せた。


「俺の頭脳ではお前には到底足元にも及ば無い、それに、」

「お前じゃない。」


言葉を遮るあまりにも可愛らしい意味を含んだ要求にイールフォルトは思わず笑いの息をふ、と漏らす。
その吐息がザエルアポロの耳許に掛かるとひくりと肩を震わし小さくン、と声を上げた。


「俺は凄いと思う。他の誰にも成し得る事の出来ないものだと。尊敬し、誇りに思っているよ、ザエルアポロ。」


漸く発せられた己の名前にザエルアポロは満足したのか深い息を吐き出すとイールフォルトに抱き着き直した。



イールフォルトの首に回されていた腕の力が抜けゆっくりと両脇に滑り下りていくのを感じる。
どうしたものかとザエルアポロの顔を覗くと目の下の隈を長い睫毛で隠しながら、静かに寝息をたて眠っていた。
血色の悪い頬に労わりを込めて唇を押し当てると寝台へとその軽い身体を起こさないように寝かせて遣った。


「そんな無防備な表情を晒すのは俺の前にだけにしろ。賞賛の言葉を求めるのも、名前を呼ぶ事を求めるのも、…全て俺だけにしろ。」










********************

日記ログ(うろ覚え)に大幅加筆。
仮タイトル「僕を褒めて?お兄ちゃん」(笑)


.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ