第一本棚
□髪質事情
1ページ/1ページ
「浴室を使わして貰って済まないな、ザエルアポロ」
「嗚呼…いや、別に気にしていないよ」
6の宮の浴室が壊れた。
ディ・ロイのカスが風呂の中で暴れ回るからだ、あのカスめ。
復旧作業が終わるまで風呂どころかシャワーすら浴びる事が出来ない。
そこで俺はザエルアポロの自室の浴室を借りたという訳だ。
俺は下肢にのみ衣服を纏い首にタオルを引っ掛けながら適当に椅子に腰を下ろした。
そして何時ものように頭を下に向かせタオルを被り仮面を避けながらがしがしと髪を拭く。
「ちょッ、おい!何してるんだよ…!?」
急に驚いたようなザエルアポロの声が届き、髪を拭いていた手を止め髪の隙間から顔を見遣った。
口許を引き攣らせて呆然としている。
「何、を…?髪を拭いているんだが…悪い、飛沫が掛かってしまったか?」
「違う、何でそんな拭き方をしているんだ…!髪の毛が痛むだろう!?」
「髪の毛が、痛む…?」
凄い剣幕で怒鳴られ目を見開きながら瞬きを繰り返し馬鹿みたいに科白を反芻すると人指し指をびしっと指してきた。
「そこを動くな。動いたら殺す」
物騒な言葉を残すとそのままザエルアポロは何処かへ消えてしまった。
俺は流石に殺すに至らないにも何かしらされるのは分かっている為に椅子から動かず、動けず黙っていた。
暫くすると櫛と小さめのタオルを持ったザエルアポロが戻ってきて、俺の背後に立った。
ゆっくりと櫛を上から下へと動かし、乱れだ髪の方向を揃えるとタオルで挟み込むように水分を拭っていく。
「折角、僕とは違って綺麗な真っ直ぐな髪をしているのに…あんな拭き方をしたら…全く」
ぶつぶつ文句を言いながらも手付きは丁寧で、それは心地が良かった。
「手入れ等拘った事が無かったんだ…すまな、」
「こっち向くな、顔を戻せ。カス」
謝罪の言葉を口にしようと首を捻りザエルアポロの方を向くとねめ付ける視線を喰らい両手で顔をぐいっと戻された。
どうやら何もせず何も言わずに黙っていた方が良いらしい。
「兄さんのこの髪も……、全て僕の物なんだから乱暴に扱うな。分かったな?」
指先で髪を辿るように触れ、流れに沿って下へと滑らせていくとそっと唇を押し当てられた。
その感触を享受すると俺は、嗚呼、と短く答えた。
********************
拍手お礼小説第七弾。
くせっ毛はすとれーとな髪に憧れるのですよ。的。
素晴らしい愛情表現。
.