第一本棚

□七つと繰り返される狂劇
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暗く照明の灯されていない部屋から聞こえるのは、布の擦れる音とどさりと床へとモノが落ちる音。
それと、女にしては低く、男にしては高い、所謂、中性的な声。


「っ…僕には兄さんだけだなんだ。本当だよ。だから、…そんな顔しないでよ。」


引き落とされた冷たい床から身体を起こすとザエルアポロは立ったまま冷たく酷い嫉妬の色を滲ませる視線で見下ろしているイールフォルトを仰ぎ見る。
なるべくこれ以上神経を逆撫でしないように声量を抑えながら様子を窺うように。

常の状態とは違い、幾ら声を掛けても自分を見据えたまま何も発そうとはしないイールフォルトにザエルアポロは恐怖を覚えるとジーンズの裾を掴み緩く引きながら許しを請う。


「…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。許してよ、ねぇ、…兄さん。」


謝罪の言葉にイールフォルトの口許が僅かに緩んだのをザエルアポロが認識し安堵の為に息を吐き出すも束の間、掴まれているジーンズの裾の手を払うように足が持ち上げられそのまま腹部を無遠慮に蹴り上げられた。


「…ぐっ、…ふ…ッ」


走った衝撃にそれでも噛み殺したように短い呻き声を上げ痛みを訴える腹部を抱え込むように身を丸める。
抵抗する事無く肩を小刻みに震わしながら乱れる息を整えると、ザエルアポロはイールフォルトを再び仰ぎ見た。


「はっ…は、ぁ…ごめん、なさ…い」


振り払われた手を再びイールフォルトの方へと伸ばし、先とは違い上着の端をつかむと目元に涙を滲ませ、頬を伝い落ちていく涙等まるで気にした風も無く必死に謝罪の言葉を繰り返す。

幾度となく繰り返される謝罪の言葉と流れる涙にイールフォルトは目を細めると膝を折り曲げ身を屈めた。
ザエルアポロは思わず身を竦ませるも涙を拭うように頬へと触れる指先に嬉しそうに表情を緩め、その手に擦り寄って見せた。


「…僕、ね。本当に知らなかったんだ。ただ、少し勉強を教えて欲しいと言われただけで…まさか、彼奴が、あんな事するなんて…ッ」


言葉を零す度に状況を克明に思い出すのか細い眉を潜め明らかな不快感を顔に滲ませて見せながら強張る自分の身体を抱くように腕を回す。
イールフォルトはただ静かに頬に手を添えたまま、尚も唇を開く事はしないものの小さく頷きながらザエルアポロの言い訳を聞いた。


「あの時、兄さんが来てくれて良かった。そうじゃなかったら…僕…。ねぇ、大好きだよ、イールフォルト兄さん。」


自分の身体を抱いていた両腕を解くと屈んだままのイールフォルトの首に回していき、するりと身を寄せ耳許にゆっくりと言葉を落としていく。
抱き付く重みをイールフォルトは享受し腰へと腕を回してやると、ザエルアポロは至極嬉しそうに純粋に笑み頬に唇を触れさせる。


「…僕ね、兄さんの為なら何でも出来るよ。裏切ったりしない、したくない。もしもだよ、万に一つも有りはしないだろうけど、もしもそんな時が来たら僕を…、



……して」



その言葉にイールフォルトは口角を引き上げ、狂気に歪んだ笑みを浮かべた。










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リハビリ作。狂愛。

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