第一本棚

□ばれんたいんでーきっす
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*健全ではありませんので注意*





今日は現世の日付に直して、2月、の…何日だ?
食事や睡眠も疎かに生活していると日付の感覚なんて、ましてや虚圏には現世でいうところのカレンダーというモノが無いから尚更の事分からなくなる。


さて、話を戻そう。


朝から続いているこの煩わしい視線には気付いては居る。
ただ、これは突っ込むべきなのか寧ろこのまま放置しておくべきなのか…出来れば僕としては前者を取りたいところである訳だ。

それでも其処に居るソレに背を向けて実験を開始して既に数時間。
無言で向けられる視線に無視を決め込もうとしていた僕も流石に限界に達する。


「……、一体何なんだ。」


声をかけられた当人は口端を上げ笑みを浮かべながら寄り掛かって居た壁から背を離し此方に向かい歩んできた。


「そのよく分からない実験とやらは終えたのか?それとも休憩か?」


一度僕の向こう側にある机を覗き見ると片手を上げながら首を傾げた姿勢で問われた。


「誰かの所為で集中出来なくてね。小休憩だ。」
「何だ、俺はお前の邪魔はしていない筈なんだが?」


厭味を込めた科白に悪びれる様子も無く短い笑い声を上げた。


何が楽しいのか分からないがただ笑んでいるソレの横を擦り抜けると紙類が占領しているソファに向かう。
紙類を横に適当に床へと払い退けると右端に腰掛けた。


「少しは片付けたらどうなんだ。」
「別に兄貴には関係無…、…て、何で座るんだよ。」
「ソファは座るものだろう。それに此処にはコレしか座るものが無い。」
「……。」


床に落ちた紙類を拾い上げるとそのまま机に乗せ、僕に何の断りも無くソレは空いている左隣の空間に座った。
じろりと睨むように視線を向けるも一度肩を竦めるだけで肘掛けに肘を乗せ掌に顎を乗せて僕を見ている。

相も変わらず薄笑いを浮かべて。


特に何の行動も起こさないソレを再び無視する事に決めると第8十刃従属官のルミーナとベローナを呼び付け簡単な命令を下した。


「「ザ エ ル アポロ 様〜」」


暫くするとトレイを頭上に掲げぺたりぺたりと慎重な足取りのルミーナの周りをベローナが飛び跳ねくるくると回りながら此方に向かってきた。
隣でほぅ、と感心したような声が聞こえた、が、ちらりと一瞥するに留めて従属官達に目を戻した。

紅茶一式とケーキの乗せられたトレイを受け取ると片手をひらっと振り部屋から従属官を退かせる。

紅茶をカップに注ぎケーキ…今日はガトーショコラ、を皿に乗せフォークで切り分けると次々に口へと運んでいく。
疲れた身体に染み渡るような僕好みの甘さ。


「なァ、ザエルアポロ。此処まで無視する必要は無いんじゃないか?」


紅茶の入ったカップに唇を付けようとしたところをひょいとソレに持ち上げられ、そのまま奪われた。


「僕に何をしろって言うんだ。…もう良い、静かに飲んでろ。」


明らかな怒気を孕んだ声色で発するも僕から奪った紅茶の入ったカップに口を付けずずず、とわざとか何時もどおりなのか音を発て啜りだした。


「ソレを俺に分けるつもりは無いのか?ほら、あーん…」
「は…?お前普段甘いモノ食わないだろ。しかも、何だその阿呆面は。」


皿の上に乗ったガトーショコラを指差しながら僕の方を向き口を開けて見せてきた。
その様子に思わず間の抜けた声を上げて仕舞った。

段々振り回されている自分自身に苛立ちを覚えつつ、嫌がらせを込めてソレが指差している皿の上のガトーショコラの残り半分を一気に口に収めた。
あ、と小さく声を上げたまま固まったソレに鼻を一つ鳴らし、咀嚼し先よりも濃く広がる甘たるさを味わいながら飲み込んだ。

「…で、どうする…、…ン、」

皿を机に置きながら口元を歪めて問うも急に肩を掴まれ向かい合う形を取らされた。
そして、唇を重ねられた。
驚きのあまり目を見開きくぐもった声を漏らすも構わず舌が唇の合間を縫い、入り込みゆっくりと口内を辿っていく。
必死に引き離そうとするものの片手を後頭部に回されがっちりと固定された。

「……ん、っ……は、」

舌を絡ませられ、緩く吸い上げられ、抵抗の力がゆるゆると抜けていくのを感じていると唇が離された。
離れ際唇を舌先がなぞりわざとらしくちゅ、と音を発てられ、肩で息をしながら片手を満足そうなソレ目掛けて思い切り振り上げる。
が、笑い声と共にかわされ、二撃目を入れようとするもその間にソレはソファから退いていた。


「クハ、ハ。これでお前からチョコレート、を貰った事だしな、ホワイトデーは三倍返しらしい。楽しみにしておけよ!ザエルアポロ!」


無駄な高笑いを上げるとソレは僕の自室を出ていった。



…嗚呼、今日はバレンタインデーという日だったらしい。
僕にとっては厄日だ。










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何とかぎりぎり間に合わせたバレンタインデー記念。

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