小噺
□もう一つの花言葉
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――チクッ
ああ、ほらまただ・・・・
―もう一つの花言葉―
最近、ことあるごとに胸を締め付けるように奔る微かな痛みに、檜佐木は頭を悩ませていた。
どうしようもなく、苦しくなるが、原因が分からない。何をしても手に付かなくて・・・こんな事初めてで、どうしていいのか解らない。
今日ももちろん例外ではなかった。
それはつい先ほどのこと。書類を届けに行った帰りの廊下で日番谷を見つけ、何故か高鳴る気持ちで声を掛けようと手を挙げた・・・・が、日番谷の隣にベッタリとくっつく三番隊長が目に入った瞬間、声は飲み込まれ、手は中途半端な位置で固まらざるを得なかった。
そして感じるあの苦しさ・・・・居ても立ってもいられなくなって、逃げるようにその場を後にしたのだった。
「うぅ・・・」
胸を締め付けられる感覚に襲われ思わず漏れる悲痛な声。そんな呻きが聞こえたのか、不意に後ろから声を掛けられる。
「なんて声出してんすか?」
「う、うわぁ?!あ、阿散井・・・驚かすなよ・・・」
「ただ声掛けただけじゃないすか、」
失礼な、と言おうとして言葉を止める。何だか、檜佐木の様子がいつもと違うような気がしたのだ。
「なんかあったんすか?」
「へ?」
「や、何か元気ないみたいっすから・・・あ!女に振られたとか?!」
少し嬉しそうに問いかけてくる後輩に、少しムキになって答える。
「俺が振られるわけねぇだろっ!お前じゃねぇんだから」
「うわ、ヒデーっすよ!でも、じゃあ・・・」
何か悩み事っすか、という言葉に、急にそれまでの勢いが失われ、俯き加減で呟く。
「いや、悩みっつーか・・・よくわかんねぇけど、病気なのかも・・・」
「病気?!先輩が?!」
嘘でしょ、と失礼なことを言いつつも心配そうな顔を向けてくる後輩に、慌てて付け足す。
「いや、だからそんなに大したことじゃねぇって。あくまで“かも”だし・・・」
「で?どんな症状なんすか?」
「なんつーか、こう・・・胸が痛んで・・・・」
「胸ぇ?」
「いや、痛むっつーか、何かチクッと・・・・」
「チクッと、ねぇ」
まぁとにかく大したことじゃねぇから、と仕事に戻るために阿散井に背を向けた時、阿散井があ!と言う声をあげた。
「な、なんだよ?」
「俺分かっちゃいましたよ」
「あ?」
「それ、病気じゃなけりゃ恋っすよ!」