小噺

□優しいキスをして
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だから、ね・・・?








―優しいキスをして―









見てしまった、一番見たくない場面。



――隊長が女の人と抱き合っているところなんて。



見たくなんてなかったのに、直ぐに眼を逸らしてしまいたかったのに・・・それがまるで映画のワンシーンのように美しかったから、傷つきながらも見入ってしまったの。

でも、やっぱり見なきゃ良かった。だって、幸せそうに隊長に抱きつくあの女の人の顔が、嬉しそうに、愛おしそうに彼女の頭を撫でる隊長の顔が、今も鮮明に頭に焼きついて・・・・息が出来なくなりそう・・・






5月某日、十番隊。この日、乱菊は絶不調だった。何をしても上手くいかず、出るのは溜め息ばかり。

原因はもちろん昨日見てしまった日番谷のラブシーン。何をしていてもあの時のことが頭に浮かんで、他の事が手につかない様子。

だがそんな乱菊とは対照的に、日番谷の機嫌はすごく良いらしく、笑顔を見せることも多い。それが余計に乱菊を苦しめるのだった。


『っし、終わり、と。おい、松本』


まだお昼を過ぎたばかりだというのに、早くも自分の仕事を終えたらしい日番谷が上機嫌で乱菊に声を掛けた。その嬉しそうな表情になんだか嫌な予感を覚え、泣きたくなる。


「・・・何ですか?」

『あ?お前何か怒ってんのか?』


泣きそうになるのを抑えたせいか、不機嫌そうな声になってしまったのだろう。日番谷に言われて、懸命に、慌てていつも通りを装う。


「別に怒ってなんかないですよぉ〜。それで、何ですか?」

『あぁ、俺ちょっと抜けるから、悪ぃけど後頼むな』

「えっ・・・」


嫌な予感的中。その表情で“あぁ、あの人に逢いに行くんだ”と分かってしまう。悲しくて、辛くて、戻りは遅くなるかもしんねぇから待たなくていいぞ、と言って足早に出て行く日番谷の背中すら見ることが出来なかった。


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