小噺
□踊らされる運命
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きっと、ずっとずっと・・・
―踊らされる運命―
夕暮れ、定刻過ぎの九番隊舎。柔らかな夕日が差し込み、穏やかな雰囲気が漂っている・・・はずが。
「っはぁ〜・・・」
そんな穏やかな雰囲気に不釣り合いの、深刻そうな溜息を吐くのは、九番隊副隊長・檜佐木修兵。
彼は今、夕日の美しさになど構っていられない程悩んでいた。
長年想い続けてきた十番隊隊長に緊張しながらも、懸命に気持ちを告げたのはつい先日のこと。そして彼の全身全霊の告白は、受け入れられたはずであった。
それにも拘らず、その日以来、何の進展もない。それどころか、話すら出来ていない日々が続いているのだった。
「・・・会いたいと思うのは俺だけなのかな・・・?」
それまでは“見ているだけでも構わない”などと思っていても、想いが通じたとなれば、それなりの欲が出るのが人の性。
毎日でも会いたいと思うし、触れたいと思う。でも、自分の気持ちを押し付けるようなことはしたくない・・・そんな反する思いが檜佐木を悩ませていたのだった。
「・・・日番谷隊長はどう思ってんのかな・・・」
ふと思い返される告白の瞬間。檜佐木が「好きだ」と言うと、少しの間を空けて日番谷が「俺も」と言って・・・
「あ、あれ・・・これってもしかして付き合ってるって言わない、か・・・?」
その時は「俺も」という受け入れの言葉に舞い上がってしまったが、よく思い返してみると日番谷の口からは「好きだ」という言葉は聴けていない。
「想いが通じたってのは、俺の思い違い・・・?!」
もしかしたら日番谷は“好き”の意味を取り違えているのかもしれない。
「・・・あり得る・・・つーかそっちの可能性の方が高い・・・」
そんなことでは甚だまずい。不安に駆られた檜佐木は居てもたってもいられなくなり、日番谷に会いに行こうと立ち上った・・・その時。
――トントン
控え目に響く戸を叩く音。そして次いで聴こえてきたのは、凛と通る澄んだ声だった。
『檜佐木いるか?』
「えっ・・・?!」
不意に鼓膜を揺らしてきたその声に、これでもかという程に同様してしまったが、慌てて駆け寄り扉を開ける。
「ど、どうしたんすか、日番谷隊長?」
『仕事、終わったか?』
「は、はい、丁度終わったとこですが・・・」
『じゃ、飯でも食いに行こうぜ』
「へっ・・・」
予想していなかった日番谷からの突然の誘いに、思わず固まってしまう。
「飯って・・・2人で、ですか・・・?」
『あ?あぁそのつもりだが・・・』
誰か他に誘うか?と言う日番谷に、檜佐木は目が回ってしまうんじゃないかと心配になる程に首を横に振った。
「い、いえっ・・・ふ、2人の方が・・・嬉しいです・・・」
『そっか』
じゃ早く行こうぜ、と言って見せた微笑があまりにも美しくて。檜佐木はそれまで感じていた不安が一気に蒸発していくような気がした。
『おい、どうかしたか?』
「えっ?」
日番谷の顔を見れたことと、嬉しすぎる食事の誘いによる気の緩みが顔に出たのだろう。日番谷は不思議なものを見るような視線を檜佐木に向けた。