小噺
□居酒屋相談所
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まったく困った奴だな・・・・
―居酒屋相談所―
まだ夜も早い時間の居酒屋。
大き目のグラスに注がれた透き通る琥珀色の液体を一気に飲み干す親友を見て、京楽は苦笑した。
「随分ととばすね〜。それ、一気飲みするお酒じゃないよ?」
大してお酒強くないくせに、と笑う京楽に、浮竹は何も言い返さず、ただ目線と行動で“おかわり”と意思を示した。
「どーしたの、何かあったのかい?」
「・・・・おかわり」
「はいはい」
珍しく浮竹の方から飲みに行こうと誘われて来てみれば、この様子。他の者から見ればどうしたんだと心配になるような様子だが、京楽にはその理由が分かりきっていた。
最近親友は恋をしているらしい。尤も、京楽からすれば“やっと気付いたのか”という感じだったが。
新しい酒を持って来た店員に礼を言い、ふぅと空気を換えるように息を吐いて、問いかけた。
「何かあったのー?・・・日番谷君と」
その名を聴いてピクリと反応を示した浮竹に、京楽は自分の予想が間違いではなかったと確信する。
それが分かれば後は問いただす様な事はせず、浮竹が自ら話し出すのを待つ。彼らはそういう関係だった。
少しの沈黙の後、酷く悩んでいる様子で浮竹が口を開いた。
「・・・あの子は人気が有り過ぎる」
「・・・・・はぁ?」
余りにも分かりきっているその浮竹の言葉に、京楽は思わず間の抜けた声を出してしまった。日番谷が人気があることなど、彼が入隊した時から明らかだった。
「・・・今更何言ってるんだい」
「・・・今更じゃない」
改めてだよ、と深刻そうに溜息を吐く。
浮竹曰く、いつものように十番隊舎に遊びに行った時に気が付いたのだという。十番隊の殆どの者が、尊敬や憧れ以上の熱っぽさで自分たちの隊長を見ているということに。
今までも何度も目にしてきた十番隊の仲睦まじい光景は、ただの仲の良い主従の関係ではなかったのだ。
今更ながら浮竹がそのことに気が付いたのは、自分の気持ちを理解し、鈍感から脱出したためであろう。
「へぇ・・・愛されてるんだねぇ、日番谷君は」
「・・・・それだけじゃない」
感心したような京楽に、まだあるんだ、と言って浮竹は再び溜息を吐いた。
「十番隊は異様に来客が多いんだ」
そして訪れる者の殆ど全てが日番谷に恋心を抱いているのは明らかだと感じたのだと。
しかも問題なのはそのバリエーション。男も女も関係なく、どこの隊かも関係ない。平隊員から席官、そして隊長格まで。それこそ選り取り見取りで・・・・
「・・・多すぎる」
「え?」
「いくらなんでもライバルが多すぎる・・・そう思わないかい・・・?」
「・・・確かにねぇ」
浮竹の話を聴く限り、日番谷の人気は予想以上のもので、日番谷が人気であるのを理解していた京楽も流石に驚いたようだった。