小噺

君ありて幸福
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ただ、それだけで。








  ―君ありて幸福―









人にはそれぞれ幸せを感じる時いうんがある。
例えば美味しいものを食べとる時やとか、仕事で認められた時やとか・・・それはほんまに人によって違う。

ボクにももちろんある。きっとあの子は、ボクの気持ちなんて知らんのやろうけど・・・・




『・・・市丸?』


十番隊舎の前で立ち止まっとったとこを、不意に後から声を掛けられた。振り向くと、少し眉を寄せた、可愛い子が立っとった。


『何か用か?』

「用がないと来ちゃあかんの?」

『・・・今は業務時間中じゃなかったか?』

「そないなこと言うて、日番谷はんかてサボってはったんやろ?」

『俺は休憩を取ってきたんだよっ!』

「あ、そんなら同しや。ボクも今休憩中やねん」


ボクの言葉に、嘘だろ、とでも言うようにあからさまに顔を顰めはる。そんな表情すら可愛らしい。


「ま、そないな顔せんで。ほら、お土産もあるんやで?」

『土産ってな・・・』

「ほらほら、固いこと言わんと、ね?」

『・・・ったく』


仕方ねぇな、なんて溜息を吐きつつも隊舎に招き入れてくれはる優しさに思わず顔の筋肉が緩んでまう。

隊首室に通されてからも日番谷はんの一挙手一投足がボクのツボで、ニヤケ顔が治らん。その所為で、

『何ニヤニヤしてんだよ、気持ち悪ぃ』

なんて言われてもうたけど、しゃーないやん。その言葉すらも可愛らしいて思うてしまうんやから。

ボクの差し入れも気に入ってくれはったみたいで、美味いな、なんて軽く笑いながら食べはる姿なんて、言葉に出来へん程や。

ほんまにえらい可愛らしい、可愛らしいんやけど・・・ちょっと気に入らない点が一つだけあんねん。


「・・・・なぁ、こんな時くらい仕事すんのやめてぇや」


そう。ボクをソファに座るよう促して、お茶を淹れてくれてからずっと。ボクの差し入れを食べとる時も、可愛らしい笑顔を浮かべた時も、その視線はずっと書類に向けられとる。

ボクの前で可愛らしい仕草をしてくれるんはええんよ?やけど、少しくらいこっち見てくれてもええやんか。


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