小噺
□氷輪の涙
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今年もまた、雪が降る。
―氷輪の涙―
雪が好きだ。キラキラと幻想的で、何だかワクワクして、ドキドキして、子供の頃に返ったような、そんな気分にさせてくれる。
だけど。
毎年決まって同じ日に降る雪だけは、どうしても好きになれない。
・・・・それはきっと、ただの嫉妬なんだろうけど。
その日に降る雪が他の雪と違うことに気が付いたのは、あの人が隊長になってすぐだったから、もう随分と前のことだ。
その日はなんだか寝付けなくて、外の空気を吸おうと窓を開けた。
午前一時過ぎ。いつもなら凍えるような寒さになる時間帯だったが、その日は冬にしては暖かかった。
だから、ふわりと雪が舞い落ちてきた時は凄く驚いた。
それにその雪は何故だか少しだけ温かくて、俺が今までに見てきたどの雪よりも美しかった。
昔から雪が好きだった俺は、そのことが不思議で、どうしようもなくワクワクして、もっとその雪に触れたくて。子供みたいに自室を飛び出した。
そして雪の降る場所を確かめるように空を見上げて・・・・隣の隊舎の屋根に人影を見つけたんだ。
辺りは暗くて、人を判別するのは難しいはずだったのに、それが誰かなんて、すぐに分かった。ずっと気になっていて、ずっと眼で追っていたから。
そしてその所為だろう、すぐに気が付いたんだ。
(・・・この雪はあなたのものなんですね・・・)
この温かさと美しさは、紛れも無く日番谷隊長そのものだった。
そしてその雪を手に、顔に感じている内に気が付いた。雪に込められた哀しみに。
(・・・・泣いているんですか・・・?)
それはまるで、誰かを想って流す涙のようだった。