小噺
□もう一つの花言葉
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一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。が、目の前で楽しそうに笑う後輩を見て、全てを理解する。
「お、お前なに言って・・・・」
「だってそうでしょ?病気じゃないなら恋してるからしかないじゃないすか」
誰なんすか、お相手は?とニヤニヤと問いかけてくる後輩に、馬鹿野郎と否定しようとした時、不意にある人物の顔が過ぎる。
胸が痛むのは、どんな時だった?
――あの人が誰かと楽しそうにしている時――
あの人の笑顔を見たときは?
――言い様も無く、幸せになった――
恋?この俺が?まさか、そんな――・・・
「答え、出ましたか?」
顔を上げると、こりゃあいい!という風に先程よりさらにニヤけた顔を向けてくる後輩。
「ちっ、違ぇよ!!お、俺仕事に戻る!じゃあな!!」
報告待ってますからねぇ〜、と叫ぶ阿散井を無視して、大慌てでその場を離れた。
隊舎に向かう途中の廊下で立ち止まり、壁に背をつけてズルズルと崩れた。
自分の感情が自分で信じられない。まさか自分が恋なんて、そんな。しかも相手は・・・そんな気持ちで、はぁ、と溜め息を吐いた時、上の方から凛とした声が響いた。
『檜佐木?』
驚いて見上げてみると、そこには問題の人物が。
「ひ、日番谷隊長・・・・」
『どうしたんだ、こんな処に座り込んで・・・気分でも悪いのか?』
スゥ、っと中腰になって檜佐木の顔を覗く日番谷。その所為で体中が熱くなるのを感じる。だが、懸命に冷静を装って答える。
「えっ、いや、何でもないですよ」
『そうか?心なしか顔が赤いみたいだぞ?』
「大丈夫です!あ、俺仕事に戻んないとなんないんで」
『そうか?まぁ無理はしねぇ方がいいぞ』
心配そうな日番谷に「はい!」と敬礼して檜佐木は再び居た堪れない場から逃げ出した。
それから数日。
恋なんて久しくしていなかった為か、大分時間が掛かってしまったが、檜佐木は自分の気持ちを確信していた。――俺は日番谷隊長が好きらしい・・・・それも随分と前から――と。
“そうか、そうだったんだ”と独りで納得するものの、“どうしていいか解らない”という不名誉な状況に変わりはない。
ふぅ、と溜め息を吐いて席を立ち、最近日課になっている散歩に向かう。隊舎近くにある芝の茂る小さな丘がこの頃の特等席で。いつものようにゴロリと横になって身体を伸ばす。
ふと横を見て、あるモノに目を奪われた。――無意識の内にそれを手に取る・・・と、
「あ、四葉のクローバーですね」
不意に後ろから聞きなれた声が響いた。