小噺
□お馬鹿な奴ら
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「えー?!それ本当ですか?!」
「嘘に決まってるじゃなーい!」
「あぁ、またですか?!副隊長〜!!」
副隊長の教え宜しく、いつも賑やかな十番隊。今日はいつにも増して賑やかなご様子。それは今朝の開口一番に放った台詞にあった。
「ねぇ、みんな知ってる?現世では今日、4月1日は嘘を吐いてもいいんだって!」
乱菊が例のごとく現世から仕入れてきた行事・・・エイプリル・フール。現世では有名になりすぎたこの日、いまさらこの日に嘘を吐かれて引っかかってしまう者は少ないだろう。
だがここは尸魂界、おもしろい様に皆騙されるのだ――ただし乱菊の嘘は巧妙な上、演技も迫真なので、現世の者ですら騙せてしまうだろうが。
乱菊の“嘘を吐いてもいい”発言を聞いてからは、嘘のオンパレード。日番谷が留守なのをいいことに、真実と嘘を織り交ぜ、どこが嘘かを見破れ!などとまるでお祭りのような騒ぎである。
「隊長にも何か嘘吐いてみようかしら?」
「え、それは止めたほうがいいんじゃないですか?」
「なんで?隊長って意外に騙され易そうじゃない?」
「「確かに・・・」」
など、遂には敬愛する日番谷にまで話が飛び火する。どんな嘘にしようか、と考え始めたその時、一人の隊員が声をあげた。
「あっ・・・隊長・・・・」
「え〜?何言ってんの、隊長は五番隊の演習に付き合ってるから、夕方まで帰って来ないわよ〜。しょうもない嘘吐いてないで、あんたも考えなさいよ!」
『・・・何を考えるって?』
「「「?!」」」
凛とした声が響き、それまで大騒ぎだった隊舎が一瞬にして静まり返る。
固まってしまった隊員たちを代表して、乱菊が恐る恐る振り返る。
「・・・た、たいちょ・・・お、お早いお帰りですね・・・?」
『ああ、思っていたより早く終わってな・・・・』
「お疲れさまです!あっ、お茶淹れますね!」
『ああ・・・で?お前らは仕事もしねぇで何を考えてたんだって?』
上手く話を逸らせたと思ったのも束の間。やはりこの隊長は甘くない。
「え、っと・・・お、お花見!」
『あん?』
「今週末のお花見の出し物について話し合ってたんですよ!」
ね、と他の隊員たちを見る。その目力に一瞬驚いた顔を浮かべるものの、全員すぐさま力強く頷いた。そんな隊員たちのようすを日番谷はふぅん、と納得したように眺める。
だが、このまま見られていては、いつボロが出るか分かったものではない。取り繕うように乱菊が口を開く。
「さっ、隊長、お疲れでしょう?お茶にしましょう!」
日番谷の背中を押して執務室へと誘導する・・・が、すぐさま動きを止めることになった。日番谷が足を止め、乱菊の目を見つめてきたからである。
「え・・・な、何ですか?」
じっと日番谷の綺麗な翡翠の瞳に見つめられ、流石の乱菊も動きを止められてしまう。
他の隊員たちも、まるで自分が見つめられているような気になり、じっと目の前の2人を見遣る。