小噺

□お馬鹿な奴ら
2ページ/3ページ


「ど、どうかしましたか・・・?」

『いや・・・ただ、今日の任務で気付いたんだ』

「え、何にです?」

『俺にはやっぱり・・・お前が一番だな』


思いもよらないその言葉に、全員が固まってしまった。

日番谷曰く、今日の任務で別の人間と組んで、特に不都合なことはなかったのだが、やはり何かが違う。そして思ったのだという。


『俺にはお前が一番だ』


真剣な表情で言い放ったかと思えば、言い終えた瞬間にふわりと柔らかい笑みを浮かべる。
そしてそれはもれなく他の隊員たちにも贈られた。


『それに・・・やっぱり俺はお前たちと一緒の方が嬉しい』


最高のタラシ言葉に、まさに計算されたかの様なタイミングの微笑。これで眩暈を起こすなと言うのは無理を通り越して、酷というもの。

全員が同じタイミングで息を呑み、一斉に耳まで真っ赤に染める。腰を抜かしてその場に座り込んでしまった者も少なくない。

そして一番近くでタラシ込まれた乱菊は眼を潤ませている。


(やだ・・・嬉しすぎ・・・・)


感情をどう表現したらいいのか分からず、未だ天使のような笑顔を浮かべる日番谷にいつも以上に激しく飛びついた・・・・が、絡めようとした腕は何も包むことなく空を切ったのみ。

あれ、と思ったのと同時に顔に痛みが走っているのを感じ取る。見ると日番谷の手が乱菊の額を押さえている。

どうして止めるんですか!と反論しようとしたが、それは叶わなかった。乱菊の眼に映ったのは、先程の天使の微笑みが幻では、と思うほどの恐い微笑み。


「え・・・たいちょ・・・」

『なんて、言うと思ったか?』


そう言い放つ声は、さっきまでと同一人物とは信じられないくらいに冷たさを含んでいて、一気にその場を凍てつかせる。


『仕事サボって騒いでる奴らにそんなこと言う馬鹿がどこに居る』


嘘に決まってんだろが、と隊員たちを見回す。その眼は怖いくらいに輝いていて、先程とは別の意味で全員身動き出来ず、息を呑む。

辛うじてまだ自由を得ていた乱菊が、隊士を代表して反論を試みた。


「う、嘘吐くなんて酷いですよっ?!」


しかし反論も空しく、日番谷はあっさりと言い放つ。


『今日は“嘘を吐いてもいい日”なんだろ?騙される方が悪い』

「「「?!」」」


全員言葉もなく、ただ驚いて見開かれた眼で“何故それを”と訴えかける。それが通じたのか、日番谷が答える。


『てめぇらの馬鹿騒ぎは外までだだ洩れなんだよ!』


ったく、と最早呆れ顔の日番谷に隊員たちは、ただただ平謝りする他なく、


『もちろん仕事は定刻までに終わらせるんだよな?』


と、微笑みながら放たれた言葉に、一人の例外も無く机に飛び付くことを余儀なくされた。


そしてそんな部下たちの姿を見て、日番谷は小さく溜め息を吐き、エイプリル・フール=四月馬鹿・・・・それはまさに、こいつらの為にある言葉だな、と思ったのだった。







 ―お馬鹿な奴ら―





(ま、そんなところも、こいつらの可愛いところ・・・かもな)









Fine.

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ