小噺

□嫌いだよ
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そして約束の時間。一角と僕、そして何人かの隊員を引き連れて十番隊の練兵場に向かう。

練兵場に入ってまず驚いたのが、十番隊の隊員がほぼ全員集まっていたこと。は?何で?って思ったけど、すぐ理由が明らかになって、それがまた僕を驚かせた。

・・・何コレ。そこに居る十番隊士全員の眼が明らかに輝いてる。そしてその視線の先にあったのは、予想以上に小さい背中と、予想外の綺麗な銀髪。他にも銀髪の奴を見たことはあるけど、こんなに綺麗なのは見たことが無い・・・・


「あ、たいちょ〜、一角たちが来ましたよ!」


いきなり張り上げられた乱菊さんの声で、小さな後姿に釘付けになってしまっていた目を放す。

でも次に聴こえてきた声によって意識を、振り向いた姿に目を、それぞれ奪われてしまった。


『ああ・・・来たか』


面倒くさいといった様子で放たれたその声は、それでも十分に凛と澄んでいて。そして振り向いたその顔は、今まで見てきたもののどれよりも美しいと思った。

・・・・・いや、違うな、眼だ。もちろん顔はすごく綺麗なんだけど、僕の目が釘付けになったのは声と同様、いや、それ以上に澄んだその瞳だった。

見たこともない、宝石のような翡翠の瞳から視線を剥がすことが出来なくて。

次に僕が意識を浮上させることが出来たのは、負けた一角が横に転がってきた時だった。


「いってぇ〜・・・」

「・・・大丈夫、一角?・・・っていうか、負けたの?」

「うるっせぇなっ!ちょっと吹っ飛ばされただけだっ!」

「はいはい・・・・やっぱり強かったんだね」


全然見てなかったけど、一角のことを飛ばせる者なんて尸魂界にだってそう何人もいるわけじゃない。


「まぁな。やっぱ隊長ってのは伊達じゃねぇ」


ちっこいのに何処にあんな力があんだ?と納得いかないように呟く一角。その言葉にはたっぷりの賞賛が込められていて。何故だか少し嬉しくなって、もう一度視線を戻した時・・・目が合った。

突然だったからすごく驚いて、思わず目を逸らしてしまった。そしたら次は声を掛けられた。


『お前はやらねぇのか?』

「え・・・?」

『あとはお前だけだぞ?』


パッと周りを見渡すと、あちらこちらにうちの隊員が転がっていた。

嘘でしょ・・・この短時間で全員やられちゃったの?っていうか、僕はただ付き添いで来ただけだし・・・っていうか、何か、あんまり近づきたくないんだよね・・・なんとなくだけど。


「いえ、僕は・・・」


結構です、って断ろうとした瞬間、朝に引き続き、空気の読めない奴が一人。


「ほら、早く稽古付けてもらって来いよ、弓親」

「はっ?!」


本当、何言い出すのこいつは・・・僕、早く帰りたいんだけど。だって何か落ち着かないっていうか・・・なんか調子が狂う気がするんだ、あの人の、日番谷隊長の近くに居ると。

でもそんな僕の気持ちなんてお構いなしに、他の隊員たちまで「俺らの分まで、一矢報いてください」とか騒ぎ出す始末。なんか日番谷隊長まで待ってる感じだし・・・・


「・・・宜しくお願いします・・・」


そう言って木刀を持って礼をしたのはいいけど、やっぱり思うように体が動かなくて。

脇が甘いとか、もっと踏み込めとか、色々アドバイスしてくれるのは有り難いんだけど、その度に僕の動きは鈍くなってしまって・・・

――ガンッ

あっという間に、他の隊員と同様、転がる羽目になった。いたた、と起き上がろうとしたその時、差し出された小さな手が目に入った。手を取るべきか迷っていると、無理やりにグイッと引っ張り起こされた。


『お前、調子悪ぃのか?』

「・・・え?」

『今の、本気じゃねぇだろ?』


驚いて目の前の小さな人を見遣ると、同じようにあの綺麗な翡翠も僕を映していて・・・自分でも何でか分からないけど、心臓がありえないくらいに飛び跳ねるのを感じて、見なきゃ良かった、と後悔した。

だから、嫌だったんだよ・・・分かりきってたこの勝負。絶対いつもの力が出せないって分かってたんだ。だって日番谷隊長の声が、瞳が、僕をいつも通りにはしてくれないんだもの。

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