小噺
□嫌いだよ
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「ぼ、僕、帰ります!!」
『あ?』
ああ、やめてよ・・・・不思議そうに見つめてくるその瞳に、息が出来なくなりそうだ。
居た堪れなくなって、急いでその場から逃げ出した。引き止める声も聴こえてきたけど、もうそんなのになんか構ってらんなかった。
「おい、弓親!!」
慌てて追いかけて来たらしい一角に腕を引っ張られた。
「・・・何?」
「何?じゃねぇよ!お前、稽古の礼くらい言ってから帰れよな」
いくらなんでも無礼すぎんだろ、と言う台詞に、一角にそんなこと言われたくない、って言い返そうしたけど、出来なかった。確かに失礼だったっていう自覚はあったし。
「どうしたんだよ、お前?」
どうしたの?そんなのこっちが聴きたいよ。
「そんなに気にくわねぇのか?日番谷隊長のことが」
気に喰わない?違うんだ、そうじゃなくて・・・
「・・・・嫌いだよ、あの人・・・」
「はぁ?!」
そうだよ。嫌いだよ、あんな瞳。自分が自分じゃないみたいになるんだよ。
「んなこと言ってもなぁ・・・」
「・・・何?」
「そんな赤い顔されて言われても説得力ねぇぞ?」
「っ?!」
「・・・お前、本当に綺麗なもんに弱ぇよな」
そう笑いを堪えながら言う一角が何だか妙に憎たらしくて、思いっきり脛を蹴飛ばしてやった。
何すんだ、なんて怒鳴る一角に、バーカと言い捨てて自分の部屋に向かう。僕は悪いことしてないもの。笑った一角が悪いんだよ。
確かに綺麗なものは好きだ。だけど、ものには限度ってものがあるじゃない?
心臓に悪い美しさなんていうのは苦手なんだよ。だからね?
「・・・嫌いだよ、あんな人なんか・・・」
誰も居ない隊舎の廊下でそう呟いた僕が、あの人の好きなお茶菓子を持って十番隊に遊びに行くようになるのは、もう少しだけあとのお話・・・・。
Fine.