小噺
□不治の病
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「熱の理由が分かりましたよ、浮竹隊長」
「え・・・何なのですか?」
「それはきっと、不治の病ですわ」
「えぇ?!」
何ていう病気なんですか?!と慌てる浮竹をよそに、卯ノ花はクスクスと上品な笑みを漏らす。そして柔らかな調子の声で続けた。
「そうですね、敢えて名を付けるとしたら・・・」
「したら・・・?」
「“恋の病”・・・でしょうか」
「へっ?!」
思いもよらないその単語に思わず驚きの声を漏らしてしまう。しかし、発言者は卯ノ花、冗談で言うはずもない。そのことが浮竹を混乱させた。
(恋って・・・恋?!俺が?誰に?!)
恋という単語を聞いたとき、確かに浮竹の頭には一人の少年の顔が浮かんだのだが、それを自覚出来ないほどに彼は混乱していた。
だが、次の卯ノ花の言葉で、一気に浮竹の頭の靄は吹き飛んだのだ。
「どなたかは存じませんが・・・素敵な方なのですね」
素敵な方・・・そう言われ、今度は自分を心配してくれた少年の顔が明確に浮かんだ。
「・・・そうですね、とても」
そう答えた浮竹の顔は未だ少し赤みを帯びてはいるが、先程までとは比べ物にならない程に穏やかで。それを見て、にっこりと微笑み“お大事に”と言う卯ノ花を、感謝しつつ見送った。
そして浮竹はその場――十番隊舎前――で、自覚したての気持ちと共に、愛しい少年の帰りを待つ。
お菓子をあげたくなるのは・・・・
(少しでも接点を持ちたいから)
叩かれた腕が熱かったのは・・・・
(触れられて、感情が昂ったから)
顔が、身体が熱を持ったのは・・・・
(鈍感な心を、全身が代弁したから)
全ては簡単なこと。どうしようもなく愛しく思っているから。誰よりも想っているから。
だから、一番隊から帰ってきた日番谷に『まだ居たのかよ?!』と怒られても、それは浮竹にとっては喜びの一時で。そしてこんな幸せを感じられるのなら、この病気が一生のものであって欲しいと思わせた。
――動機、発熱、めまい・・・・それは不治の病。またの名を、“恋の病”
Fine.