小噺

□優しいキスをして
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日番谷が出て行ってから乱菊は、部下たちに心配をかけまいと、油断すれば泣きそうになる情ない自分を叱咤するように仕事に打ち込んだ。

だがそんな様子が逆に、事情を知らない部下たちから見ても何かを懸命に抑えているようで、心配をさせるのだった。


「あの・・・副隊長・・・?」

「・・・ん?どうかした?」

「その、大丈夫ですか・・・?」

「え・・・」


控えめに問いかけてきたのは、三席の珠洲島だった。その表情はいかにも心配そうで、しまったと思った乱菊は慌てて取り繕おうとした。


「なぁに言ってんの、大丈夫よ〜?」

「ですが・・・何やらお辛そうですが・・・」

「っ・・・」

「今日はもう急ぎの仕事も有りませんし・・・」


もう強がるのも限界だった。今までずっと我慢していた涙は決壊ギリギリで。

それでも部下に涙は見せられない。嬉し涙ならいくらでも構わないのだが、哀しみからくるこの涙は、間違いなく可愛い部下を動揺させてしまう。


「じゃ〜お言葉に甘えて、ちょっと休憩貰うわぁ〜♪」


そう思った乱菊は零れそうになる感情を必死で抑え、出来るだけいつも通りに答えて、急いで執務室を飛び出したのだった。




向かった先は黒陵門近くの高台。殺風景で人通りも少ないので、普段はあまり来ないのだが、一人になりたい時には持って来いの場所である。

目的地に着いてまず深呼吸をする・・・つもりだった。だがそれは叶わず、足を止めて直ぐに膝から崩れてしまった。そして乱菊の意思とは無関係に涙が頬をつたう。


「あ、れ・・・・?」


おかしいな、まだ泣こうとなんてしてないのに、と少しおどけた様に言ってみても、その言葉は吹き抜ける少し冷たい風に掻き消されてしまう。

拭っても拭っても次々と溢れ出る雫が地面を濡らしていく。


「っく・・・・」


もう、抑えることなど出来なくて。感情のままに、ただひたすらに泣き続けた。





・・・どれくらい泣き続けただろう。隊舎を出た時にはまだあった太陽はあと少しで完全に地平線に顔を隠そうとしていた。


「・・・そろそろ帰らなきゃ・・・」


そう言ってみるものの、涙は未だに流れ落ちることを止めてはくれない。


「も・・・やだぁ・・・・」


そう呟いた時にパサッという音と共に丸めた背中の上に微かな温もりを感じた。


「え・・・・?」

『今日はさみぃから、こんなとこにずっと居たら風邪引くぞ』

「!!」


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