小噺
□好みのタイプ
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いきなり抱きしめられたことに一瞬戸惑いの色を見せたものの、次に聴こえてきた振り返らずとも持ち主の分かる声(もっとも、声を聴かずとも、こんな非常識なことをしてくる人物は一人しかいない)に、日番谷は冷静に、少し冷淡に反応を返した。
『いきなり現れんじゃねぇよ・・・つーか、窓から入って来んなって何度言えば分かるんだよ』
呆れ気味に言い放ち、首に回された腕を引き剥がす。
「相変わらずつれないんやねぇ」
折角逢いに来たんに、と切なげに言う様子はどう贔屓目に見ても演技くさい。
『嘘つくなよ。サボりの理由に人を巻き込むんじゃねぇ』
「嘘やないで?ボクはほんまに日番谷はんに逢いに・・・」
『あ〜はいはい』
「何その適当な感じ・・・!」
もし仮に市丸が本当に自分に逢いに来たのだとしたら、日番谷としては益々頭の痛いことである。
このサボり魔の同僚の顔を見る度に、哀れな副官の顔が浮かんでくるからだ。
日番谷がはぁ、と重めの溜め息を吐いた時、今度は乱菊の声が響く。
「ちょっとギン!毎日毎日邪魔しに来ないで、少しは真面目に働きなさいよね!」
正論だ。だが言った本人もサボりの常習犯なので、効果は無い。
「乱菊かて、日番谷はんに仕事させて自分はサボってばっかりやん」
こちらも正論。しかしこれまた言った本人がサボりの常習犯で。
不真面目同士の正論のぶつけ合いほど馬鹿馬鹿しいものはなく、聴いていた日番谷は「付き合っていられるか」といった様子で、いつの間にか2人を無視し仕事に戻ってしまっていた。
「だから、あんたに言われたくないって・・・て、ちょっと隊長?!」
『あ?何だよ?』
「何だじゃないですよ〜!私たちが隊長のために言い争ってるっていうのに!」
何仕事なんかしちゃってるんですかっ!と副官らしからぬセリフを声を大にして言う副官に日番谷は思わず軽い眩暈を覚えた。
『仕事“なんか”だと・・・・?』
「そぉや〜仕事なんかせんと、ちゃんと話聴いてくれなアカンやん!」
『・・・・・』
副官に引き続き、同僚までが仕事を“なんか”呼ばわりする始末に、日番谷はもう怒る気すら起こらない。
『つーか、お前こそ仕事しろよ・・・吉良が泣くぞ』
「あ〜ええねん!イヅルは泣いてなんぼやから♪」
『お前・・・・』
日番谷は、今頃上官が溜め込んだ仕事に追われているだろう吉良を考えると、とても他人事ではないような気がして、“今度2人で飲み行くかな・・・”と本気で思った。
「ほらぁ、もうギンなんてほっといて・・・早く教えてくださいよ!!」
乱菊はさも“隊長は私のよ!”という風にグイっと日番谷を自分のほうに引き寄せる。
いきなりのことで日番谷もバランスを崩し、乱菊の胸にすっぽり納まる形となった。
『ぅおっ?!』
「ちょぉ!ギンなんかて何やの?!」
むぅっとした表情で反論しつつ、今度は市丸が日番谷を自分の元に引き寄せた。
『っおい、お前ら・・・』
「ちょっと!私の隊長に触んないでよっ!」
「何言っとるん?日番谷はんはボクんやっ!!」
『はぁ?!』
最早、何の争いなのかよく分からなくなってきたが、2人とも日番谷が関わっているるとなると引かず・・・・2人で日番谷の腕を引っ張り合うことになった。