小噺

□予想される未来
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そんな乱菊の疑問と困惑を流すかのように、少年はさらりと言ってのけた。


『あぁ・・・飛び級で卒業したんすよ』

「飛び級って・・・一年で?!」

『まぁ正確には九ヶ月っすね』


この春護廷隊に入隊したんす、とやはりさらりと言うその様子は、それが如何にあり得ないことかが分かっていないよう。

いくらなんでも早すぎでしょ、と驚く乱菊などお構いなしに手に持った書類を差し出してくる。


『はい、これ。・・・つーか多すぎないっすか?』

「へ?あぁ・・・別に私の所為じゃないわよ?!」


慌てて弁明する乱菊に、少年は呆れた様にくくっと笑う。いつもなら、何笑ってんの?!と言うところだが、その表情があまりにも可愛らしくて何も言えない。


『で?どこに持ってくんすか?手伝いますよ』

「え?あぁ、一番隊に・・・」

『あ、何だ、うちの隊か』

「坊や一番隊なの?!」


一番隊はエリートな隊士が多いので有名で最初に配属されることは殆ど無い。それにも関らず、こんな小さな少年が配属になるなんて。

だが、またしても少年は乱菊の驚きなど気にする様子もなく、まったく別のところにつっこみを入れてきた。


『つーかあんた、坊やって言いすぎ・・・』

「は?あ、ごめん。でも私も“あんた”じゃないわ。私は松本乱菊、十番隊三席よ。君は?」

『・・・一番隊第五席、日番谷冬獅郎っす』

「ごっ、五席?!」


今日はこの少年、日番谷に色々と驚かされている乱菊だったが、これはその中の極めつけだった。

この春に入隊したのなら、僅か三ヶ月で五席になったというのか・・・それとも入隊と同時だったのか・・・

目を丸くして驚く乱菊に気が付いたのか、日番谷はぼそっと「別に好きでなったんじゃないっすよ」と呟く。

そんな日番谷の様子に乱菊は、


「好きでなったんじゃないってね・・・」


なりたくてもなれない人はいっぱい居るのよ?と溜め息を吐く。


「それに、その実力ならいずれは隊長になるでしょ?」

『・・・どうっすかね』

「なりたくないの?」

『や、そういうわけじゃ・・・あ、そうだ』


それまでそっぽを向いていた日番谷の瞳が急に乱菊に向けられた。その美しさに思わず乱菊は息を呑む。


「な、何?」

『十番隊の隊長の席が空いたらなりますよ』

「・・・へ?」

『そんで、書類は溜めるなと教育します』

「っな・・・?!」


言葉と共に、浮かべられた人の悪い微笑に、口の達者な乱菊も言葉が出てこない。

そんな乱菊の様子に、今度は柔らかい笑みを浮かべて、「じゃあ、書類は預かります」と言って日番谷は一番隊の隊舎の中に去って行った。






「・・・やられたわ・・・・」


残された乱菊は、空を仰いで呟いた。それはかなり不遜な発言であったはず。だけど何故かドキドキするような発言で。

この時、乱菊の頭には、はっきりとした未来が見えていた。仕事を溜め込んだ自分を叱る、十番隊首の羽織を着た日番谷の姿が。

その姿を想像して、自然と笑顔が零れる。


「・・・・そう遠い未来の話じゃないのかも」





――乱菊の想像した、微笑ましい、幸せな未来が現実のものとなるのは、それから僅か一年後のことである・・・・。







Fine.

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