小噺
□居酒屋相談所
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「まぁ、綺麗な子だしねぇ」
「・・・・うん」
「頼りにもなるし」
「・・・・うん」
「厳しいけど、実はすごく優しいし」
「・・・うん」
「てゆーか、天然タラシって感じだよね」
「そう!そうなんだよ!!」
問題はそこなんだ!と大きめの声で叫びながら、浮竹はガバっと凄い勢いで立ち上がった。
「あの子は・・・誰に対しても優しすぎるんだ」
「そうだねぇ・・・でも本人無自覚だしねぇ」
どうしようもないね、という京楽の言葉に、大きな声を出して少し落ち着いたらしい浮竹は溜め息混じりに呟いた。
「・・・やっぱりハッキリ忠告するべきかな・・・」
「忠告?何て?」
「だから・・・あんまり誰に対しても優しい態度を取らない方が良い・・・とか」
「それ・・・何か束縛男みたいな台詞だねぇ」
苦笑気味に京楽が呟いた言葉は放った本人の予想以上に威力があったらしい。
浮竹はうぅっという低い呻き声を上げると机に突っ伏してしまった。そして急に起き上がったと思えば、思い出したかのように酒を飲み始めた。
「おいおい、そんなに飲んだら後悔するよ?」
「いいんだ・・・」
今日はもうヤケ酒だ、と半泣きで酒を流し込んでいく浮竹に、京楽は再び苦笑し呟いた。
「そんなに好きなら、告白しちゃえばいいじゃない」
それは軽く言い放たれた、もっともな呟き。だがまたしても浮竹には威力のある言葉だったらしい。・・・口に含んだ酒を噴出す程に。
「っぶはっ!!」
「ちょ、汚いなぁ・・・何しちゃってるの?大丈夫?」
「なっ、何って・・・京楽が変なこと言うからっ・・・ごほっ」
「だって、好きなんでしょ?ヤキモチ焼いてヤケ酒しちゃうくらい」
「そ、そりゃあ・・・」
そうなんだけど、と続けられる筈だった言い訳の言葉を発する筈だった口は開いたまま動かなかった。そして酔って赤かった頬は見る見る内にさらに赤く染められていった。
「浮竹?どうかしたのかい?」
そんな浮竹の様子を不思議に思った京楽が問いかけるも、反応はない。その眼はただどこか一点に釘付けになっている。
その視線を追って京楽が振り向くと・・・・
「あれ?日番谷くん?」
そこに居たのは居酒屋には不釣合いの小さな少年。誰かを探しているのか、浮竹と京楽の存在には気付いていない様子。
「おーい!日番谷く〜ん!」
「?!」
驚いて制止しようとする浮竹を無視し、京楽はブンブンと両手を振ってさらに呼びかけた。
「こっちこっち〜!」
『京楽・・・それに浮竹』
「珍しいね、日番谷くんがこんなとこに来るなんて」
『ああ・・・ちょっと松本を探しに』
「え?でももう終業時刻だよ?」
『・・・明日提出の書類溜め込んだ挙句、逃げ出しやがったんだよ』
少しの間を空けて不本意そうに答える様子が大変そうで、だが可愛らしくて京楽も思わず苦笑してしまう。
「大変だねぇ・・・でも息抜きも必要だよ?」
『まぁな・・・つーか、どうしたんだ浮竹?さっきから一言もしゃべんねぇけど』
「えっ・・・」
それまで突然現れた想い人を、驚きと嬉しさと困惑がブレンドされた表情で見つめていた浮竹は、急に話しかけられ、言葉を詰まらせてしまった。