小噺

出会い
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突然の質問。まさか“いつもキミの事観察してんねん”とも言えへんし。咄嗟に適当なことを言った。


「・・・ほら、キミ有名人やし」

『・・・そう、っすか』


納得したのか、してへんのか、よう分からん表情をしはる。なんや気まずいような感じがして、話を変えたくて、今度はボクから質問してみた。


「日番谷クンはボクのこと知ってるん?」

『そりゃ知ってますよ。三番隊の市丸隊長、ですよね』

「あら、何で知ってはるの?」

『いくら新米でも、隊長・副隊長の顔と名前くらいは知ってますよ。それに市丸隊長は有名ですし。・・・怖い人だ、って』

「・・・なるほど」


この子が一番隊なのを思い出す。そう言えばボク、一番隊からのウケが良くないんやったな、と苦笑していると、でも、と言う声が聴こえてきた。


「ん?何?」

『でも、話に聞いていたのとは違いました』

「どういうこと?」

『・・・意外に優しい人なんだな、って』

「へ・・・・」


・・・たぶん、優しいなんて言われたんは初めて違うかな?なんやどうしようもなく恥ずかしくて、どう反応していいか分からんかった。

日番谷クンは、やっぱりそんなボクの様子を知る由もなく、書類を拾い終え、ボクの方に向き直った。


『じゃ、助けてくれて本当にありがとうございました。失礼します』


名残もなく向けられた背中が、なんや寂しくて、思わず引き止めようとしたその時。あっと小さく呟いて、日番谷クンは立ち止まった。そして顔だけボクの方を振り向いて、


『あんま仕事サボって屋根の上にばっか居たら駄目っすよ?』


人間観察も程々に、と言うその表情はまるで、部下を叱る隊長のようで。そしてそれが驚くほど様になっとって、でも可愛らしくて。ボクは身動きが取れへんくて、去って行く背中を見送ることしか出来へんかった。



そして小さな背中が見えなくなって、漸く自分を取り戻した。

(あの子・・・ボクが見とったこと、気付いとったんや・・・)

隠れて様子を窺っとったのがバレとって恥ずかしいのに、気付いてくれとったんが、妙に嬉しくて。

(ほんま、異例やわ)

ボクがこんなに一方的にやり込められた気になるんも、それが悪い気がせん、いうんも。

(ああ・・・こらあかん)

ふぅ、と降参の意味を込めた溜息を吐いて、真っ青な空を見上げた。




これやから、あかんかったんや。

あの子は近づいたらあかん子。もし近づいてもうたら、色々と面倒なことになる。その証拠に、ホラ、今まで感じたことのない感情が生まれてもうた。


あの子には人を惹き付ける力がある。ボクにはない、不思議な力が。

あかん、もう手後れや。ちりり、と胸が疼いた。


・・・日番谷冬獅郎を、好きだと思った。






Fine.

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