小噺
□キミの笑顔が好きだから
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どうしたらいいのか分からず日番谷の真似をするかのように俯いてしまう市丸。
そんな彼を余所に日番谷はすっと立ち上がると、何も言わずに病室を出て行こうとする。
「え?ちょ、ちょお待ってぇな!」
『・・・何だ?』
「何だ?やないわ!何でなんにも言わへんと帰ろうとしてはるの?」
『・・・別に』
「別にて・・・何で怒ってはるん?」
市丸としては、それは当然の問いかけだった。
しかし、一気に上がった日番谷の霊圧と、下がった部屋の温度を感じ、何故かは分からないが自分が地雷を踏んでしまったことを悟った。
『・・・何で、だと・・・?』
「え・・・うん・・・何で・・・?」
目を覚ましてから日番谷を怒らせるような言動をした記憶はないが、妙に迫力のある日番谷に気後れしながら尋ねる。
「なぁ、日番谷は・・・・」
『・・・あの時』
「え?何?」
『虚に襲われた時・・・おめぇ、諦めただろ?』
「へ・・・?」
一体何を言われるのかと思えば、目を覚ます前、虚に襲われた時のこと。予想していなかった問いかけに一瞬固まるも、そう言えば、と思い出す。
確かに市丸はあの時、生を半ば諦めていた。それ程までに酷い手傷を負ってしまったからだ。
あれは誰だってあかんと思うやろ。めちゃくちゃ痛かったしなぁ・・・と間の抜けたことを考えて、思考が停止する。
自分が生きることを諦めた、“死ぬなら今がいい”と思った。それは確かにそうだ。だけど・・・・・
「あれ?日番谷はん、何で知ってはるの?」
そう、それは市丸が沈んでいく意識の中で思った、市丸の思いで。市丸以外の者が知っているはずはないのだ。
不思議に思い、問いかけながら日番谷を見遣ると、日番谷は怒っているような、呆れているような様子で溜息を吐いた。
『・・・そのぐらい気付く。治療すりゃな』
「ち・・・りょう・・・?」
『まぁ卯ノ花隊長の様にはいかねぇけど』
応急処置ってヤツだ、とむすっとした表情のまま放たれた台詞に、頭がついて行かない。
「え・・・ちょお待って?キミ、あの時、来てくれはったん?」
『は?気付いてなかったのかよ?』
一層不機嫌そうに顰められる日番谷の表情に、市丸はただ力なく謝るしかなかった。