小噺2
□本気の戯れ事
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『まだ・・・何か用かよ』
「・・・好きや」
『っ、だから、そういうことは・・・』
「なぁ、日番谷はん、ボクの目ぇ見て?」
『はぁ?』
「日番谷はん、こういう話の時、いつも目ぇ逸らすやろ?」
目を?俺が?そう言えば確かに、二人で居る時にこいつの目を見た記憶があまりない。でも・・・
『・・・・』
「な、ちゃんと見て?」
促すような優しげな声色に釣られ、顔を上げて後悔する。
「ボクはいつも本気やよ?本気で、日番谷はんが好きや」
『っ・・・!』
思わず息をのむ。なんだよ、その表情・・・こいつのこんな表情、見たことねぇ。これは・・・真剣な眼?
何だか凄く居心地が悪いような気がして、再度視線を外そうとしたところで、問いかけられた。
「日番谷はんは、ボクが嫌い?」
・・・・え。
「な、どう?教えて?」
『お、俺は・・・』
嫌い?そうだよ。俺はお前のことが・・・いや、嫌いなのか?苦手ではある。何だか少し怖いような感じがして。でも、別に嫌いなわけじゃなくて・・・
・・・あ、れ?
「・・・今夜十時に白道門の丘」
『え?』
返答に窮していると、少しトーンを落とした声が鼓膜を揺らした。
「十時・・・や、何時になってもええわ。とにかく今夜、白道門の丘で」
「何の、話だよ?」
「何って、夜の逢瀬のお誘いやけど?」
「っ・・・!」
また人をおちょくりやがって、そう言おうとしたのに、向けられた視線があまりにも真剣で、言葉を続けることが出来なかった。
「その時に日番谷はんの気持ち、教えてな?それまでボク、待っとるから」
来てくれるまで、待ってる。
小さく呟いた声がどこか不安げに、切なげに聴こえて。気のせいかもしれない、だけど俺を戸惑わせるには十分過ぎる程だったんだ。
それで、今に至る。
あれから市丸は表情をいつもの飄々としたものに戻し、隊舎に帰っていった。
あれは、いったい何だったんだ?執務時間中は極力考えないようにして、仕事に集中していたが・・・仕事が終わった途端にあの時の市丸の言葉が、表情がグルグルと頭を巡ってしまう。
まるで抜け出せない迷路に入ってしまったかのように不安になる。
くそっ・・・全部あいつの所為だ。あいつが、あんな俺の知らない顔を見せたりするから、どうしていいか分からなくなって、らしくもなく悩んだりしちまうんだ。
考えすぎなのがよくねぇのかもな、と思い、疲れた体を休めるように、思考を止めてしまうように布団に身体を埋めた。
だけど、疲れているはずの頭と身体は一向に眠りにつこうとはしてくれなくて。
俺はどうしてこんなに悩んでるんだ?
どうしてあの時、はっきりと断れなかったんだ?
――ボクは本気やよ?
やめろよ、冗談だろう?
――日番谷はんが好きや
俺を揶揄ってるんだろう?
お前の言葉は全て・・・戯れなんだろう?
俺は・・・
身体を起こし頭を抱える。ちらりと時計を見遣ると、針は一時を回っていた。
『もう、待ってるわけねぇよな』
――何時になってもええわ
有り得ねぇよ。もう予定の時間から三時間も経ってる。待ってるはずがない。ないけれど。
――来てくれるまで、待ってる
そう小さく呟いた声と背中が頭から離れなくて。
気がついたら、部屋を飛び出してた。