小噺2
□片陰の温かさ
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この温かさは・・・
―片陰の温かさ―
『あちぃな、くそ・・・』
日差しのきつい夏の午後。小さな呟きと共に、それまで休むことなく書類の上を動いていた日番谷の手が止まった。
元々、夏は得意ではなかったが、それでも別に仕事が手に付かないとか、そんなことはなかった。だけどここ最近の暑さには、いい加減うんざりしてしまう。
しかも十番隊の執務室の空調は、最近どうにも調子が悪く、蒸し風呂のような状態が続いていて外の方が涼しいのではないかと思うほどだった。
そしてそんな暑さの中での書類整理は、拷問としか言いようがなく、酷く日番谷を疲弊させた。
「・・・たいちょー?」
『あ?』
それまで書類に向けていた視線を上げると、いつの間に目の前に来ていたのだろう、乱菊が心配そうに日番谷の顔を覗いていた。
「大丈夫ですか?何だかぼーっとしてますけど」
『あぁ・・・ちょっと暑くてな・・・』
「ちょっと休憩したらどうですか?」
『いや、暑いのは皆同じだろう』
「でも隊長、お昼休みもまだじゃないですか!どっかで休憩がてら涼んできてください!」
『そう、だな・・・』
普段なら応じることのないその提案に乗ったのは、流石に我慢の限界がきていたからか、副官の気遣いが嬉しかったからか。
『・・・ちょっと、散歩でもしてくる』
少しすまなそうに言い放ち、日番谷は執務室を後にした。