小噺2
□心をこめて
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だから・・・ね。
―心をこめて―
「日番谷はーん!」
その大きいを通り越して、煩いという域に近い声に日番谷は咄嗟に身構えた。
だが想像していたような衝撃は襲ってこず、代わりに控えめに腕を引かれた。
『・・・どうした?』
その声の主にしては控えめな行動に違和感を覚え、何かあったのかと少し心配気な声と視線を返す。が、予想していたものとは少し異なった柔らかな表情に安堵するとともに疑問を感じる。
『なんだよ?何か用か?』
「あ、あんな・・・?」
えーっと、えーっと、と何か照れた様に用件を中々切り出さない市丸に、日番谷は益々訝しげに首を傾げる。
『・・・なに?』
「その・・・今日の夜、暇かなぁ、なんて・・・」
『夜?別に何も予定はねぇけど?』
「ほ、ほんま?!ほんなら、十二時ちょっと前にボクんとこ来てくれへん?」
『十二時?何でそんな夜中に・・・』
「見せたいもんがあんねん!な、ええ?」
真剣な顔で、ぐっと両肩を掴まれる。その鬼気迫る、とも言える、だけどどこか一生懸命な様子に思わず頷いてしまう。
『別に・・・いいけど』
「やった!ほんなら、待ってるで!」
腕が千切れてしまうのではないかと思うほどブンブンと手を振り、スキップ交じりに帰って行く市丸に、その場に残された日番谷は独り再び首を傾げた。
(何事かと思えば・・・)
誘いに来ただけかよ?そんなのいつもしてんじゃねぇか。しかも煩くて嫌気が差すほど。なのに何で今日はあんな躊躇してたんだ?
(しかも何でか照れてるし・・・)
今更なんだよ?だったらいつももう少し遠慮しろよ。つか、あんな真剣な顔とか出来るのかよ。思わず頷いちまったじゃねぇか。
なんて思うが、了承した後の嬉しそうな満面の笑みを思い出して、まぁ偶には付き合ってやってもいいか、と微笑を浮かべた。
――十一時五五分、三番隊舎。
普段なら鍵が閉められている時間だが、今日は無用心にも開けられていて。
大丈夫かよとも思うが、開けてもらう手間が省けたと思うことにし、遠慮せず隊首室に向かった。
『市丸、入るぞ?』
ここでも遠慮なんてせず、しかも返事を待つこともしないで扉を開けた。
だが中に居ると思っていた、日番谷をこの場に呼んだ張本人の姿はなく、鍵と同様、無用心に開け放たれた窓からの冷たい風と静寂が日番谷を迎えた。
『・・・いねぇし』
なんだよ、と日番谷が溜息を吐くのと同時に、窓の外から、深夜の静寂には不釣合いの大きな呼び声がした。
「日番谷はーん!」
『市丸?』
どこにいんだよ、と窓に近づく。
「上、上!ちょお、屋根の上に上がってきてくれへん?」
『はぁ?』
なんなんだよ、と渋々外に出、屋根の上に跳び上がる。と、そこには少し寒そうに座る市丸が居た。