小噺2
□嘘吐き
1ページ/2ページ
・・・ホラ、そんな顔で笑うから。
―嘘吐き―
「おやぁ?珍しい人が居るね」
行き付けの居酒屋で、普段は見掛けない後姿を見つけて、思わず駆け寄った。
『・・・京楽』
もう大分飲んだのだろうか、小さく、だけど少し熱っぽく名前を呼ばれて、柄にも無くドキリとした。
「一人なの?・・・浮竹は?」
いつも彼の隣で、だらしなく顔を緩めている男の名前を出すと、それまで酒の力でトロンとしていた端整な顔が急に引き締められた。
「・・・喧嘩でもした?」
少し苦笑しながら問いかけると、目の前の可愛い子は一層不機嫌そうに口を歪める。
『・・・別に』
「別にってことないでしょ。不機嫌です、って顔に書いてあるよ?」
そう言うと、ハッとしたように顔を着物の袖で隠そうとする姿が可愛らしい。
「話くらいなら聴きますよ?」
いつももう一人の方から嫌ってくらいに惚気られて、本当はもうあまり聴きたくなんてないんだけど。でも、目の前の可愛い子を放ってなんておけなくて。
・・・ていうか、たぶん、少しでも長く、傍に居たくて。
「なるほどねーそりゃあ浮竹が悪いね」
『だろ?あいつは心配性過ぎんだよ』
「・・・でも、それだけ日番谷くんのことが好きってことなんじゃない?」
「っ・・・!」
・・・あ、墓穴掘ったかも。
何でかな?あいつが日番谷くんにベタ惚れなことくらい、誰でも分ることで、もちろん日番谷くんだって分ってる筈なのに。こうやってちょっとしたことで顔赤らめて、言葉詰まらせて・・・可愛いったらない。
・・・でも、正直僕にとっては、キツい反応。
だってそれは、僕には決して向けられることはない感情の表れで。
彼は浮竹のものなんだと、思い知らされる瞬間だ。
「・・・まぁ、早いとこ仲直りしな?きっと浮竹、泣きながら日番谷くんのこと待ってるよ」
『・・・わかった。悪かったな、付き合わせて』
「気にしなくていいよ。話くらいならいつでも聞くから」
『・・・ふっ、京楽って、案外優しいよな』
違うんだ。これは、優しさなんかじゃないんだよ。ただの情ない未練なんだ。本当は無理に手を引いてでも、あいつのとこになんて行かせたくないんだ。・・・だけど。
『ありがとな』
・・・・ホラ、そんな顔で笑うから。
僕は君を引き止めることも、想いを伝えることも、諦めることすら出来なくて。
「どう、いたしまして」
この想いに気付かれないように、優しい奴のふりをして、また笑顔で嘘を吐く。
「君は大切な友達、だからね」
Fine.