NOVEL
□Hair Arrangement
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「蔵馬クン、今日はどうする?」
手馴れた手つきでケープを掛け、髪を切る準備をしながら静流が聞く。
「いつも通り毛先だけでお願いします」
忙しそうに動き回る静流を目で追いながら、蔵馬は答えた。
白を基調とし、屋外の光がふんだんに差し込む明るい雰囲気の美容室。
ここへ、晴れて美容師となり就職した静流を慕って訪れる者は少なくない。
彼女の周りはいつも賑やかで、ここの美容室の少し年配の店主も、彼女が来てから売上が増えたとほくほく顔だ。
ここに来れば、親しい仲間に出会うこともよくある。
今日も蔵馬の前には螢子とぼたんが訪れており、雑誌を見てはああでもない、こうでもないと騒がしいくらいに話に花を咲かせていた。
武器を隠している蔵馬の髪は、一般人が触れると妖気にあてられて気分が悪くなったりすることも少なくない。だから今までは、美容室に行くのも気が引けていたのだが、静流くらいの霊力があれば問題なく安心して髪を任せられる。
「暑いから、ホントはばっさり切れればいいんだけどねぇ」
静流の言うことももっともで、梅雨に入った夏一歩手前のこの季節は、長い髪がうっとおしく感じるものである。
「そうなんですよね」
髪を切る小刻みな心地よい音と共に蔵馬は苦笑いを浮かべる。事情を知っている静流にはいちいち説明もいらない。こういう点も蔵馬がここに来る理由の1つとなっていた。