乙女ゲーム短編夢
□勘違い《前編》
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的屋―まといや―には、時ならぬ黄色い歓声が木霊していた。
長身・長髪・痩身の侍が、涼しげな瞳を的に向けて弓を引き絞るたびに、取り囲む女人の間から歓声が上がっていたのだ。
侍の名は椿木泰之丞―つばきたいのじょう―。
親しい仲間からは、椿木の「木」の部分と泰之丞の「泰」の部分を合わせて「棒」と呼ばれている。
本人は迷惑だと言ってはいるが、まあ――まんざらでも無さそうだ。
「泰之丞さま〜、頑張って〜!!」
声援が飛ぶ。
彼は余裕の笑みで答えると、弓を放つ。
放たれた矢は一直線に的に向かい、真中の一際大きな赤い円に収まった。
「あた〜り〜。」
間延びした大きな声に、ドンと太鼓の音がなった。
「キャーッ!!」
歓声は一際熱くなる。