少年陰陽師 短編集

□紅蓮、うなだれる
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晴明、最近騰蛇を見ているのが楽しいよ。





「体術の特訓?」

右京の外れのあるあばら家に十二神将七名と人間二名が集っていた。
名を太陰、勾陣、朱省、天一、玄武、六合、騰蛇。
そして安倍晴明の孫兄弟、成親、昌浩である。

ことの発端はこの少年、昌浩である。




『じい様、お願いがあります。我が身の修行のため、じい様の式神の力をお借りしてもいいでしょうか。』




というわけで。
隠形した彼らをひきつれてこのあばら家にやってきた。
人が近寄らぬよう、昌浩や成親が結界を織り成してから神将たちは顕現する。

朱省が昌浩に連れてきた簡単な理由を聞くとそれが返ってきたのだ。
昌浩に体術の特訓をするよう助言した第三者の成親が詳しく経緯を話す。


「このあいだの怨霊退治で、少しは武術を身につけておいた方がいいだろうと思った我が弟は、最低限の術を神将の皆様にご指南いただこうと昌浩なりに考えたんだよ。ということで」
「よろしくお願いします!」


丁寧にお辞儀をする昌浩の姿に苦笑を隠せない神将たち。
この素直さにお願いをきいてあげなくてはならない衝動に駆られる。
微笑しながら朱省は答えた。


「で、この短期間で何を習得したいんだ?」
「じゃあ反射神経鍛える…アレで」
「よし、わかった成親。いくぞ、昌浩!」
「え、なんで兄上が答えるんですか…うわぁぁあ!」


昌浩が御託を並べているのを有無など言わさず、反射神経を鍛えるヤツ…つまり炎を起こして昌浩を攻撃する朱省。
突然の攻撃でも間一髪交した昌浩は朱省に文句を並べた。


「いきなり何するんだよ!炎だして…屋敷に火がついたらどーすんの!」
「そんなヘマはしない、もし燃えても水将の玄武がいるんだ。すぐ消してくれる。」


我は火消し屋ではないのだが…と幼い姿の玄武は人知れず悲しくなった。
察した六合は彼の頭を撫でる。





ときに珍しく勾陣は、これまた珍しく物の怪の姿ではなく本性と変じている騰蛇の姿を見た。
太陰や玄武が怖がるのをみたくないのか、彼らのいる縁側の真上にあたる屋根であぐらをかいて座っていた。

「珍しいな、お前が本性の姿を。」
「彰子もいないからな」
「な…もしや安倍邸以外ずっと本性か?」
「そうだ。」

珍しい…珍しすぎる。

これはある種の緊急事態だ、と違った察した勾陣は深く話を聞こうと一緒になって座り込もうとするが、そうする前に彼はザッと立ち上がる。
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