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□ただいま
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ただいま
















「こら、ユーリっ!」
「あぁ、渋谷っ!」

濡れた御髪と衣服のまま眞王廟を飛び出た。
猛烈な歓迎のヴォルフの手から逃げたかったからってわけじゃない。

もう二度と来られないと思っていた眞魔国に再び村田とやってきて。
そしてヴォルフやコンラッドたちの感動の再会。
ただ、ただ、嬉しくて飛び出したんだ。




最初に見えるのは俺の家でもあって、眞魔国の政治をつかさどる町。
血盟城が見える城下町だ。

門にいる馴染みの兵士に声をかける。
兵は驚きを隠せず、目が点になっている。

そのまま俺は走る。
道行く国民の皆様に声をかける。
その度に驚く顔をする国民のみんなが、なんとなく面白い…。


でもそんなことよりも、またココに来れて嬉しい。嬉しくてたまらない。





ここは俺の国、俺の国民。






馬の蹄の音がする。
馬に引かれちゃ行かない、そう思って馬道から建物の側に寄ろうと避けたらフワッと俺の体が浮かんだ気がした。

衝撃が胸に詰む。
う…馬の皮膚が見える…あれ、もしかして俺って馬に引かれた!?
って思ったけどあれ、乗ってる?動いてる動いてるっ道が動いてるっ。



「坊ちゃん。いえ陛下、お久しぶりです。」
「グリ江ちゃ…いや、ヨザックっ!」

つい最近まで一緒にいたのに、すっごい久しぶりに感じるー。
思わず、動く衝撃にぎゅぅっとヨザックの体にしがみつく。

「ほら坊ちゃん。姿勢伸ばしてーぇ。みんなに挨拶するんでしょーぉ?」
「あぁ、うんっ!」


正しい乗馬の姿勢に体勢を正して、商店で買い物をする道行く人達に挨拶する。

やっと俺だとわかったのか、みんながみんな…
歓迎の大歓声で迎える。
うわっ、なんかサヨナラホームランを打っちゃった気分。


馬だとあっという間で血盟城までやってきちゃった。
うわっ、かなり久しぶりに感じる。


「陛下っ!」
「ユーリ陛下っ!!」


ギーゼラにダカスコスに国の兵士たちやドリアさんたち。
みんな、みんな俺を歓迎してくれる。


「おやおや、戻ってらしたんですか。陛下。」
「アニシナさんっ。」
「ユーリっ!」
「グレターっ」


赤い魔女アニシナさんに手を引かれていた俺の娘が、階段を駆け下り、最後は走って父である俺の腕の中へ飛び込む。

久しぶりっ、俺の愛娘。ぐりぐりと頬ずりをする。
すると愛娘はすっごい喜んで、一緒に頬ずりする。


幾数の馬の蹄の音がする。
頬ずりをしながらそっちの方を見るとコンラッドたちがやってきていた。
ヴォルフが若干怒り気味だ…あ、チクショウ。村田はこの状況を楽しんでやがる。
胸倉を掴まれる前にちゃんと、ちゃんと言わなくちゃ。









「ただいま、みんなっ」











またあえて
またここで
またいっしょに




ただいま。ただいま。

















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